彼は入口に向かって後ずさりした。
第3投、139、700と出た。
He backed towards the door. Get a light snack in Davy Byrne’s. Stopgap. Keep me going. Had a good breakfast.
—Roast and mashed here.
—Pint of stout.
彼は入口に向かって後ずさりした。ディヴィー・バーンの店で軽く食べよう。その場しのぎ。乗り切れるさ。朝食はいっぱい食ったし。
ーローストとマッシュをくれ。
ースタウト1パイント。
昼食の場所を求めてバートン食堂に入ったブルーム氏。客の汚い食べ方が嫌で、ここで食べるのをやめることにした。すぐ近くのディヴィ―・バーン(Davy Byrnes)で軽食をとることになるだろう。back towardsは「引き返した」のではなく「後ずさりした」のだろう。二つの台詞はバートンの客のもの。
バートンは今はないが、この小説で有名になったディヴィー・バーンは今も隆盛を極める。
『ユリシーズ』は、ホメロスの『オデュッセイア』のモチーフを下敷きにしている。ギフォードの注釈によるとバートンを避けたのは、ユリシーズが人食い巨人ライストリュゴネス族の国から逃れたことに対応するという。Keep me goingという言い方はオデュッセウスの航海をにおわせる。
「彼らが水の深い港の中で、われらの仲間を殺している間に、わたしは腰の鋭い剣を抜いて、紺青色の舳先の船を繋ぐ綱を切り放すと、間髪を入れず部下たちを励まし、災厄を免れるため必死になって櫂にかかれと命じた。」
ホメロス『オデュッセイア』松平千秋訳(岩波文庫、1994年)
"Roast Beef Dinner" by L.Richarz is licensed under CC BY-NC-ND 2.0