Ulysses at Random

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』をランダムに読んでいくブログです

4 (U168.754)

失われた無敵艦隊

 4投目。168、754と出た

 

The lost armada is his jeer in Love’s Labour Lost. His pageants, the histories, sail fullbellied on a tide of Mafeking enthusiasm. Warwickshire jesuits are tried and we have a porter’s theory of equivocation.

 

失われた無敵艦隊は『恋の骨折り損』でからかわれる。彼の野外劇、史劇はマフェキングの熱狂の潮の上を帆を張って航行する。ウォーリックシャーのイエズス会士が審問されるとわれらの門番は二枚舌の理論を披露する。

 

この小説『ユリシーズ』のもう一人の主人公スティーヴン・デッダラスの思考。彼の詩的言語。気取っていて難解。この一節を含む一段落は特に高密度で第9章の読みどころと思う。ここではシェイクスピアの創作と時事問題の連関が述べられている。

 

スペインの無敵艦隊アルマダ)の敗戦(1588年)は、『恋の骨折り損』の奇妙なスペイン人の名前アーマードで揶揄される。

 

シェイクスピアの史劇はマフェキングの熱狂と結びつけられる。マフェキングとは、ボーア戦争(1899-1902)の激戦地。英国と南アのオランダ人入植者との戦争。この戦争は、小説の時代(1904)の時事問題だった。ボーア戦争はこの小説の重要なモティーフのひとつ。

 

国王ジェームズ1世の暗殺未遂事件ー火薬陰謀事件(1605年)の容疑者であったイエズス会士ヘンリー・ガーネットは裁判でequivocation(二枚舌)よばれる詭弁術を用い非難を浴びた。『マクベス』第2幕第3場の門番の台詞でからかわれる。

 

「(叉、叩く音)叩く、叩く、叩く!もう一人の惡魔さんの名前で聞くが、だれだね? あゝ、成程、お前は兩天秤の二枚舌で、眞赤な空誓文をした人だね。神さまのお爲に、 さんざッぱら嘘ゥ 吐ついた調法な舌も、天へ行く役にゃ立たなかったと見える。 さ、お入り、二枚舌どん。」 『マクベス』 坪内逍遥訳。

 

f:id:ulysses0616:20201028211948j:plain

マフェキングの英雄、ロバート・ベーデン=パウエル卿とその同僚。彼はこの時の戦闘に想を得てボーイスカウト(少年斥候)を創設した。

 File:Robert Baden-Powell and staff at Mafeking.jpg - Wikimedia Commons

 

こういう写真を見るとトマス・ピンチョンの小説の謎めいた雰囲気が思い起こされる。