Ulysses at Random

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』をランダムに読んでいくブログです

7 (U110.564)

ギリシア語!

 7投目。110、564と出ました。

 

—The Greek! he said again. Kyrios! Shining word! The vowels the Semite and the Saxon know not. Kyrie! The radiance of the intellect. I ought to profess Greek, the language of the mind. Kyrie eleison!

 

ギリシア語! 彼はもう一度言った。キリオス! 輝ける言葉! セム人やサクソン人の知らざる母音!キリエ! 知性の輝き。ぼくはギリシア語を教えるべきだった。精神の言語。キリエ・エレイソン!

 

 

新聞社の編集委員マッキュー先生の台詞。Semite, Saxon の頭韻、 know notは古風な言い回し。

先生はラテン語をけなしギリシア語を持ち上げる。大英帝国に対するアイルランドは、ローマ帝国に対するギリシアということ。ミサの通常文はラテン語だがなぜか「キリエ・エレイソン」この句はギリシア語。

 

この小説『ユリシーズ』は『オデュッセイア』のモティーフをベースにすることからも、全編にギリシア的なものへの憧れがあふれている。小説世界は、①ギリシア、②ユダヤ、③カトリックのローマと③プロテスタントの英国、この四辺形に囲まれたアイルランドという図式のなかで進行する。

 

『オデユッセイア』を霊感源とする20世紀芸術のもう一つの頂はスタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』(2001: A Space Odyssey)だろう。一見まったく似ていない小説『ユリシーズ』とこの映画には意外にたくさんの共通点がある。

 

 この小説には夥しい祈祷文句が引用される。

 

一方、映画には、ジョルジ・リゲティ(1923年 - 2006年)の『ソプラノ、メゾ・ソプラノ、2つの混声合唱管弦楽のためのレクイエム』が使われた。極端に台詞の少ないこの映画で、初めて聞こえる人間の言葉は、乗務員の ”Here you are sir. Main level please.” ではなくて、この曲の歌詞である「キリエ」である。

 

リゲティはブルーム氏のルーツと同じハンガリーユダヤ人。キューブリック(1928年 - 1999年)も中欧にルーツを持つユダヤ人移民の子孫だった。

 

 

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           Monolith as displayed at the École normale supérieure in Paris, France.

 

"File:ENS 2001 Monolith below.jpg" by Amandine Brige is licensed under CC BY-SA 4.0