Ulysses at Random

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』をランダムに読んでいくブログです

10 (U338.1075)

汝強しとの若き日の幻は

第10投。338ページ、1075行目。

 

That youthful illusion of thy strength was taken from thee—and in vain. No son of thy loins is by thee. There is none now to be for Leopold, what Leopold was for Rudolph.

 

汝強しとの若き日の幻は汝より奪われてすでに空し。汝の腰より出た息子は汝のもとになし。ルドルフにとってのレオポルドの如き者、レオポルドにとって今は無し。

 

 第14章は、過去から現在に至る英語散文の文体史を文体模写によりなぞる趣向となっている。この箇所は英国のエッセイスト、チャールズ・ラム(1775-1834)の文体という。

 

loinsは腰だが、聖書などでは股間の婉曲表現として使われている。

 

ブルーム氏の名はレオポルド。父の名はルドルフ。ブルーム氏の息子もルドルフで生後11日で死亡した。

 

集英社文庫版『ユリシーズ』第1巻にドイツ文学者の池内紀氏の解説がある。それによると、「東欧ユダヤ人はわが子の命名に際して、好んで権力にかかわりのある名前にした」という。ブル―ム氏の父はハンガリーからダブリンに来たユダヤ人。ルドルフもレオポルドもハプスブルグの皇帝の名前。

 

この一節はブルーム氏が昔のことを思い出している。ラムの『エリア随筆』(1823)中の懐旧的文章に近いように思う。

 

「あゝ古よ! 汝驚くべき魅力よ、汝は何者であるか? 汝は何ものでもなくて、一切である! 汝がこの世にありし時には、汝は古ではなかった。-その時汝は何ものでもなくて、理屈ぬきの盲目的な尊敬の念を以つて、汝が顧みた汝の所謂更に遠き古なるものがあつた。」

チャールズ・ラム「休暇中のオックスフォド」『エリア随筆』戸川 秋骨訳岩波文庫、1940年)

 

 

                 

                                      チャールズ・ラム(Charles Lamb)

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Memoirs_of_Charles_Lamb;_(1894)_(14746436246).jpg

 

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