Ulysses at Random

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』をランダムに読んでいくブログです

15 (U264.1075)

―さらには、J.J.が言う、

第15投。264ページ、1075行目。

 

 —And moreover, says J. J., a postcard is publication. It was held to be sufficient evidence of malice in the testcase Sadgrove v. Hole. In my opinion an action might lie.

 Six and eightpence, please. Who wants your opinion? Let us drink our pints in peace. Gob, we won’t be let even do that much itself.

 

 ―さらには、J.J.が言う、葉書は公表にあたるんだ。サドグローブ対ホールの判例では 悪意の十分な証拠として採用されています。私の見るところ訴えは成り立ちますね。

 6シリング8ペンスどうぞ。だれもおまえの意見なんかきいてねえよ。じゃましねえで飲ませてくれよ。ちくしょう、それすらさせてくれねえのかい。

 

 

第12章。バーニー・キアナンの酒場で「市民」、ジョウ・ハインズらが飲んでいる。弁護士のJ.J.オモロイとネッド・ランバートが入ってきたところ。今朝、匿名のいたずらの葉書をうけとったブリーン氏は名誉棄損で訴えを起こそうとして表をうろうろしている。

 

1つ目の文はJ.J.オモロイの台詞。ブリーン宛ての葉書が名誉棄損になるか論じている。サドグローブ対ホールとはどんな判決なのか。

 

筆者が検索してみた限り、名誉棄損は公表を要件とし、葉書は公表にあたるが、「その内容は、名誉を毀損された人以外の少なくとも1人の人が見たり、感じたり、聞いたりするものでなければならず、さらに、その内容を受け取った人が理解できるものでなければならない。」というもののようだ。本件はブリーン氏本人宛ての葉書なのでこの判例が役に立つのかわからない。葉書は郵便配達人など目に触れるので名誉棄損になるのかもしれない。(Kenyalaw.org)

 

2つ目の文はこの章の語り手の「思ったこと」。

 

12章の語り手は名前がなく誰かわからない。

 

柳瀬尚紀さんが、この語り手は「犬」だと論じた。(岩波新書ジェイムズ・ジョイスの謎を解く』、1996年)これはとんでもなく面白い本だった。筆者は犬かどうかの確信がまだもてない。それはさておいて、この語り手は酒場で酒を飲んでいるのか疑問で、これを追うだけでもスリリングな読書となる。この一節もいかにも飲んでいるようだがそうと言い切れない。

 

6シリング8ペンスとはなにか。これも検索してみた。

 

中世、英国にノーブルという金貨があって、これ1枚が弁護士の報酬だった。その価値は1/3ポンド。英国のお金の数え方は10進法ではなく難しい。1ポンドは20シリングであり、1シリングは12ペンス。1/3ポンドは80ペンス、すなわち6シリングと8ペンスということになる。それで弁護士報酬といえば6シリング8ペンスと言い慣わされてきた。

 

 

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 Why is a lawyer's fee six and eight pence?

https://digitalcollections.nypl.org/items/510d47e2-e512-a3d9-e040-e00a18064a99

 

これはシガレットカード(Cigarette card)の一枚。20世紀の初めころタバコのパッケージにオマケとして封入されていた。マメ知識のシリーズのよう。

 

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