44 (U555.439) - Ulysses at Random

第四に、ネリー・ブーヴァリストの非知的、非政治的、非時事的、容貌表出

第44投。555ページ、439行目。

fourthly, distraction resultant from compassion for Nelly Bouverist’s non-intellectual, non-political, non-topical expression of countenance and concupiscence caused by Nelly Bouverist’s revelations of white articles of non-intellectual, non-political, non-topical underclothing while she (Nelly Bouverist) was in the articles:

第四に、ネリー・ブーヴァリストの非知的、非政治的、非時事的、容貌表出に対する同情及び出演契約多数条項下のネリー・ブーヴァリストにおける、彼女（ネリー・ブーヴァリスト）による、非知的、非政治的、非時事的、白い下着の多数露出に起因する色情の結果として生じる注意散漫の故

第17章は衒学的な問答体によって終始する。

ここはパントマイム (pantomime)「船乗りシンドバッド」"Sinbad the Sailor" の挿入歌をブルーム氏が作詞できなかった理由を問う質問への回答の一部。その理由は6つあるが、これはその4つ目。挿入歌には時事的な話題が盛り込まれるはずだった。

日本人にとって、パントマイムというと、実際には無い壁や扉などがあたかも存在するかのように身振り手振りで示すパフォーマンスを意味するが、英国におけるパントマイムというのは、流行歌、ダンス、ジョークなどが盛り込まれた大衆的な笑劇をいう。クリスマスシーズンを中心に演じられた。男装した少女と女装した男性が主役を演じるという。われわれにはこのパントマイムというのがなじみがなくどういうものなのかよくわからない。

ここは簡単に言うと。ブルーム氏は、自分が時事的な歌詞を苦労して考えたとしても、観客はネリーの容姿と下着に気を取られて聴いてもらえないだろうから作詞をやめたということ。

compassion　と concupiscence

expression と　revelations　　

が対句となっている。

Nelly Bouveristと non-intellectual, non-political, non-topicalが繰り返される。

articles が2回でてくる。前者は衣類の数詞だが（複数形なので、何度も下着が見えるということか）、後者の in the articles　がわからない。「下着を履いている」ではないように思う。ましてや「出演中」でもないだろう。複数形で「年季契約」との意味があり、これではないか。つまり「契約下」という意味と思う。

それで気が付いたが、ここは articles　の２義に掛けて、ネリーは、契約条項（artiucle）に従って下着が見えるように演じさせられているのだという、ジョイスのギャグではないだろうか。

Giffordの注釈では、ネリー・ブーヴァリスト（Nelly Bouverist）というのは2人の主演女優 Kate Neverist と Nellie Bouverieを合成したものという。パントマイムの主演女優は男装して男役を演じた。

Kate Neveristは調べたが見つからなかった、Nellie Bouverieは見つかった。

彼女は1892年のクリスマスにダブリンで「船乗りシンドバッド」の鯨捕りウィンバッド（Whinbad the Whaler）を演じている。

鯨捕りウィンバッドはこの第17章の末尾に登場する。

”Sinbad the Sailor and Tinbad the Tailor and Jinbad the Jailer and Whinbad the Whaler and Ninbad the Nailer and Finbad the Failer and Binbad the Bailer and Pinbad the Pailer and Minbad the Mailer and Hinbad the Hailer and Rinbad the Railer and Dinbad the Kailer and Vinbad the Quailer and Linbad the Yailer and Xinbad the Phthaile.”（U607.1-）