Ulysses at Random

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』をランダムに読んでいくブログです

51(U540.1773)

二人が、さらに話しながら車道のほうへ近づいていくと、

第51投。540ページ、1773行目。

 

    On the roadway which they were approaching whilst still speaking beyond the swingchains a horse, dragging a sweeper, paced on the paven ground, brushing a long swathe of mire up so that with the noise Bloom was not perfectly certain whether he had caught aright the allusion to sixtyfive guineas and John Bull. He inquired if it was John Bull the political celebrity of that ilk, as it struck him, the two identical names, as a striking coincidence.

  

   二人が、さらに話しながら車道のほうへ近づいていくと、吊りさがった鎖の柵の向こうで、道路掃除のブラシを引いた一頭の馬が舗装された路面を早足で進み、泥を帯状に掃きとっていたのだが、そのやかましい物音のせいで、ブルーム氏は、65ギニーとかジョン・ブルとかいう相手の発言を正しく聞き取れたのかどうか完全には定かでなかった。彼はジョン・ブルというのはあの政治的有名人のたぐいことなのかと下問した。というのも同姓同名の別人であれば驚くべき偶然の一致であることに驚愕したからである。

 

第16章。夜中の2時近く。ブルーム氏はスティーヴンを自宅に連れて行こうと、馭者だまりをベレスフォード・プレイスへ出たところ。ブログの第32回のすぐ後の箇所。2人は音楽の好みについて語っている。スティーヴンはジョン・ブルなどの英国エリザベス期の音楽を愛好し、65ギニーでリュートを買いたいといった。(1ギニーは21シリングで約1ポンド。1904年の1ポンドは現在の価値では約80ポンドであり、65ギニーは今の価値で5200ポンド。日本円では約80万円といったところ。)

 

第16章は、意図的に悪文で書かれており、意味がとりにくい。

 

まず ”swingchains” というのがよくわからない。

 

この後のほうに、こうある。

“Side by side Bloom, profiting by the contretemps, with Stephen passed through the gap of the chains, divided by the upright, and, stepping over a strand of mire, went across towards Gardiner street lower, Stephen singing more boldly, but not loudly, the end of the ballad.”(U543.1880)

 

車道と歩道を隔てるため、ポールに張られたチェーンのことと思われる。2人は、ガーディナー・ストリートのほうへ渡るため、ベレスフォードブレースの歩道側から車道のほうへ出ようとしていると思わる。鎖の柵の向こうの車道側に馬の引く清掃車いたのだ。(馭者溜まりは☆のあたりにあった。)

 

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“swathe” は、(大がまで刈った)ひと刈り分の牧草、という意味。
“a long swathe of mire” は、ブラシで掃きとった広い帯状の泥の部分、ということだと思う。

 

"Certain" と "aright" が冗長で、"struck", "striking" の繰り返しがみっともない。

 

ジョン・ブル(John Bull)とは、①擬人化された典型的英国人像のことであり、②英国エリザベス期の鍵盤奏者、作曲家の名前でもある。ブルーム氏は前者は知っているが、後者を知らなかった。

       

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英国の擬人化 ジョン・ブル(Jhon Bull)ー 左の人物

File:Bruin become Mediator or Negotiation for Peace.jpg - Wikimedia Commons

 

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作曲家 ジョン・ブル(Jhon Bull)

File:John Bull (composer).jpg - Wikimedia Commons

 

ブルーム氏が偶然の一致(coincidence)に驚愕したのは理由がある。今日、彼はさまざまの偶然の一致を経験したのだから。それを数え上げることはまたの機会として、ここでは第16章の偶然の一致だけをあげてみよう。

 

  1. ティーヴンは船乗りたちとの会話で「シェイクスピアはマーフィーと同じくらい変凡な名前」といったが、船乗りは自分の名前はマーフィーだという。(U509.364)(U510.415)

  2. 船乗りは、スティーヴンの父親サイモン・デッダラスを知っているといったが、それは同姓同名の別人のことにちがいなった。(U510.414)

  3. 鮒乗りに入れ墨を彫ってくれたというギリシア人はアントニオといったが、それはシェイクスピアの作中人物と同じ名前であった。(U520.839)

  4. ティーヴンが古のイタリア人、ダンテやダ・ヴィンチやトマス・アクイナスを称賛したところ、ブルーム氏も今日、博物館で古代の彫像に感心したという。(U525.890)

  5.  不定住の船乗りや浮浪者たちが、こうして集まっていることは偶然であり、世界の縮図であるとブルーム氏がしみじみ思う。(U528.1222)

 

そして最後が今回の一節の偶然の一致。

    

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馬の引く清掃車(horse-drawn street sweeper)

File:Eckert Kehrmaschine.jpg - Wikimedia Commons

 

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