Ulysses at Random

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』をランダムに読んでいくブログです

60 (U598.2015)

出奔者は、決して何処にも如何にしても、再帰することはないのであろうか。

第60投。598ページ、2015行目。

 

 

 Would the departed never nowhere nohow reappear?

 

 Ever he would wander, selfcompelled, to the extreme limit of his cometary orbit, beyond the fixed stars and variable suns and telescopic planets, astronomical waifs and strays, to the extreme boundary of space, passing from land to land, among peoples, amid events. Somewhere imperceptibly he would hear and somehow reluctantly, suncompelled, obey the summons of recall.

 

 出奔者は、決して何処にも如何にしても、再帰することはないのであろうか。

 

 たゆまず彼は流浪するであろう、自発的に、その彗星軌道の極限まで、恒星を、変光する太陽を、望遠鏡的天体を、天文学的無主の地の向こうへ、空間の果てまで、陸から陸へ、人々のあわいを、出来事のはざまを。何処かで、かすかに、耳にするであろう、そして如何にしてか意に反し、太陽に強いられて、帰還の召喚に応ずるであろう。

 

第17章。この章は初めから終わりまで、質問と答えの形で書かれている。夜中の2時過ぎ、ブルーム氏はスティーヴンを自宅につれて帰った。スティーヴンが出て行ってしまった後、ブルーム氏の頭をさまざまな思考が去来する。

 

ブルーム氏は家族を捨ててどこか遠くへと行ってしまうことを夢想している。スティーヴンを星空の下で見送ったことからか、第17章には宇宙的な表現が多い。

 

このQ&Aは幾何学的にできていて,

 

never, nowhere, nohow が対句。

 

以下がそれぞれ対応する。

departed - reappear

wander - recall

never - ever

nowhere – somewhere

nohow - somehow

selfcompelled – suncompelled

 

waifs and strays は、法律用語で「所有者が不明の物や動物」のことだが、その後転じて「浮浪児、のら犬」の意味となっている。ここは元の意味がイメージされているのではないか。

 

放浪 wander と帰還 recall は、もちろん、『ユリシーズ』のモティーフのベースになっているホメロスの『オデュッセイア』の基本ストーリー。

 

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ハレー彗星の軌道(Path of Halley’s comet)

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:PSM_V76_D020_Path_of_halley_comet.png

 

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