Ulysses at Random

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』をランダムに読んでいくブログです

83 (U548.148)

火元から1ヤード上の高さへ視線を上げ

第83投。548ページ、148行目。

 

 

 What did Stephen see on raising his gaze to the height of a yard from the fire towards the opposite wall?

 

 Under a row of five coiled spring housebells a curvilinear rope, stretched between two holdfasts athwart across the recess beside the chimney pier, from which hung four smallsized square handkerchiefs folded unattached consecutively in adjacent rectangles and one pair of ladies’ grey hose with Lisle suspender tops and feet in their habitual position clamped by three erect wooden pegs two at their outer extremities and the third at their point of junction.

 

 火元から1ヤードの高さへ視線を上げそこから向かい合った壁へと視線をやったスティーヴンは何を見たか。

 

 5つ並んだ撥条付き呼鈴の下、煙突を覆う柱の脇の凹部を斜めに横切って、2つの留め金の間に曲線を描く紐が張り渡されており、4枚の小型の四角いハンカチが、非接触に連続し、隣接する長方形に折って、掛けられ、さらには、ライル糸織のサスペンダートップ付きグレーのストッキングが1足、上端とつま先が、通常的な位置にあり、その上端の外側の端に各1つ、内側を重ねて1つ、直立した3個の木製洗濯挟で止められていた。

 

第17章。第17章はすべて問いと答えで書かれている。夜中の2時過ぎ。ブルーム氏はスティーヴンを自宅に連れ帰った。地階の台所で彼にココアを飲まそうとコンロで湯を沸かそうとしている。

 

ティーヴンはコンロの上の洗濯物を見たところ。

 

"housebells"  とは上階の住人が地階にいる使用人を呼ぶためのベル。部屋と紐でつながっていて、引っ張るとゼンマイの先に付いたベルが鳴る仕組み。5つベルがあるということはブルーム氏の住んでいる建物には、使用人を呼べる部屋が5つあるということ。

 

File:Staff Call Bells (7964118810).jpg - Wikimedia Commons

 

ブルーム家はエクルズ通り7番地にある想定となっている。エクルズ通りの建物は18世紀末に建てられた、いわゆるジョージアン様式のもの。この手の建物のイメージはジョージアンハウス博物館(The Number Twenty Nine house on Dublin’s Lower Fitzwilliam Street)のウェッブサイトで見ることができる。ブルーム家の建物はこれほど立派な建物ではないけれど。

 

"the chimney pier" が分らない。pierは一般的には桟橋だが、四角柱の意味もあるので、コンロから上へ伸びた煙突を覆う柱状のものではないかと思う。

 

その柱の側面と部屋の壁の間のくぼんだ隙間から反対側の壁に紐を張って洗濯物が干されていると思われる。

 

ハンカチ4枚は、長方形ということなので、半分に折られて、紐をまたいで横型に掛けられていたと思われる。

 

"hose" は、ストッキング、ソックス。複数形はなく、 one pair of hose で一足。当時のサスペンダをつける hose の広告の絵からすると、タイツのように一つにつながっったものではないと思われる。

 

           

 

これを "in their habitual position"「通常の位置」つまり、サスペンダートップを上に、つま先を下にして、中央を重ねて1つ、両端を各1つの洗濯ばさみで挟んで干していると考えられる。

 

直立した木製の洗濯ばさみ ”three erect wooden pegs” に、ジョイスは性的な意味を込めているに違いない。

 

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