Ulysses at Random

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』をランダムに読んでいくブログです

85 (U638.1356)

 きっと彼はとても優秀なんだろうな

第85投。638ページ、1356行目。

 

Im sure hes very distinguished Id like to meet a man like that God not those other ruck besides hes young those fine young men I could see down in Margate strand bathingplace from the side of the rock standing up in the sun naked like a God or something and then plunging into the sea with them why arent all men like that

 

きっと彼はとても優秀なんだろうなあんな神々しい男性とあってみたいそこいらの凡くらとちがっておまけに彼は若いしマーゲイトの海岸の海水浴場にいるような若者岩陰から神さまとかみたいに裸で立ち上がって海に飛び込みどうして男たちはみんなああでないの

 

 

 

18章。最終章はブルーム氏の妻のモリの心中。ピリオドもコンマもない単語の長大な連なり、8つでできている。ここはその7つ目の終わりのほう。

 

モリーはここで、この小説のもう一人の主人公、スティーヴンのことを考えている。今日ブルーム氏はスティーヴンを家に連れて帰ってきた。彼は出て行ってしまったし、モリーはスティーヴンに合っていないが、ブルームは第17章でスティーヴンのことを寝床でモリーに語った。

 

Which event or person emerged as the salient point of his narration?

 

Stephen Dedalus, professor and author.

U605.2269

 

 マーゲイトは英国ケント県北東端部の海水浴リゾート都市。

 

集英社文庫版『ユリシーズ』の注釈では、マーゲイト海岸は「ジブラルタルとスペイン本土を分ける砂地の地峡の東側の海岸」とあるが、調べてもスペインにそのような地名は見つからない。

 

「イギリスでリゾート地といえばいつも「水辺」のことである。それには二つの種類がある。すなわち内陸にある温泉・鉱泉場であるスパーと海岸の海水浴場だ。ちょうど産業革命の進展期にイギリスではリゾートの性格に大きな変化はあった。そのひとつが、リゾート地としての人気がスパーから海水浴場に、テーブルが回転するように移行したことである。」

川島昭夫「リゾート都市とレジャー」『路地裏の大英帝国平凡社ライブラリー

 

こうして誕生したのが世界ではじめての海水浴場ブライトン。その後続々とうまれた海水浴リゾート都市のひとつが、マーゲイト。ブログの76回にでてきたセント・アンズ・オン・シーもそのひとつ。

 

1815年の王政復古でイギリスに亡命していた王族・貴族たちが続々と帰国し、イギリスで覚えた新しい習慣行動をフランスに持ち込んだ。(鹿島茂「海辺のリゾートの誕生」『パリ五段活用』中公文庫)これがフランスの海辺のリゾートの始まりで、『失われた時を求めて』の「花咲く乙女たちのかげに」の舞台となる。

 

マーゲイトはこの小説で何度か言及されている。

 

8章.ブルーム氏は昼食後、英国の海水浴場、ブライトンやマーゲイトにモリーと旅行に行くことを空想する。

 

Tour the south then. What about English wateringplaces? Brighton, Margate. Piers by moonlight. Her voice floating out. Those lovely seaside girls.

U148.1065

 

 16章、ブルーム氏は船乗りにみせられた絵葉書から将来の旅行について空想をめぐらせる。これはお昼の空想の延長だろう。その候補地にマーゲイトがはいっている

 

Another thing just struck him as a by no means bad notion was he might have a gaze around on the spot to see about trying to make arrangements about a concert tour of summer music embracing the most prominent pleasure resorts, Margate with mixed bathing and firstrate hydros and spas, Eastbourne, Scarborough, Margate and so on, beautiful Bournemouth, the Channel islands and similar bijou spots, which might prove highly remunerative.

U512.519

 

Spa(温泉・鉱泉場)があるのはバースのような内陸のリゾート地で、マーゲイトにはないと思うので、これは第16章に特徴的な「誤った情報」だろう。

 

ブルーム氏はマーゲイトに行ったことがあるような口調ではないので、モリーは独身時代に誰かとマーゲイトに来たことがあるのだろう。それを知らずにブルーム氏はモリーをマーゲイトに連れていってやろうと空想していた。そのことがここで分かる、そういう小説の仕掛けだろう。

 

             マーゲイトの桟橋

"The jetty, Margate, Kent, England, ca. 1897" by trialsanderrors is licensed under CC BY 2.0.

 

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