Ulysses at Random

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』をランダムに読んでいくブログです

89 (U437.3009)

ベロ:(ガハハと笑い)まったく見ものだぜ、こりゃ。

 

第89投。437ページ、3006行目。

 

 BELLO: (Guffaws.) Christ Almighty it’s too tickling, this! You were a nicelooking Miriam when you clipped off your backgate hairs and lay swooning in the thing across the bed as Mrs Dandrade about to be violated by lieutenant Smythe-Smythe, Mr Philip Augustus Blockwell M. P., signor Laci Daremo, the robust tenor, blueeyed Bert, the liftboy, Henri Fleury of Gordon Bennett fame, Sheridan, the quadroon Croesus, the varsity wetbob eight from old Trinity, Ponto, her splendid Newfoundland and Bobs, dowager duchess of Manorhamilton. (He guffaws again.) Christ, wouldn’t it make a Siamese cat laugh?

 

 ベロ:(ガハハと笑い)まったく見ものだぜ、こりゃ。おまえは魅力的なミリアムだったろうよ。尻の毛を刈り取ってベッドに卒倒しているさまは。ミス・ダンドレイドをまさに乱暴しようとする、スマイス=スマイス中尉、フィリップ・オーガスタス・ブロックウェル議員、逞しいテノール、シニョール、ラチ・ダレモ、エレベーターボーイ、青い目のバート、ゴードン・ベネット杯の盛名ヘンリー・フルーリー、4分の1混血の富豪、トリニティーカレッジのエイト艇競技選手シェリダン、彼女の素晴らしいニューファンドランド犬、ポント、マナーハミルトン公爵未亡人ボブズ。(ガハハ)まったく、おヘソでお仙が茶を沸かすぜ。

 

第15章。娼館の女主人、ベラ・コーエンが男性化しベロに、ブルーム氏は女性に変身している。

 

ブルーム氏は約10年前の1895年ごろ古着の売買や貸衣装の商売をしていて、シェルボーン・ホテルで、ミリアム・ダンドレイドから、古着や黒い下着を買ったことがある。

 

O yes! Mrs so Miriam Dandrade that sold me her old wraps and black underclothes in the Shelbourne hotel. Divorced Spanish American. Didn't take a feather out of her my handling them. As if I was her clotheshorse. Saw her in the viceregal party when Stubbs the park ranger got me in with Whelan of the Express.

(U132.350)

 

ブルーム氏はミセス・ダンドレイドの下着で女装したことがあることがほのめかされていて、ベロのセリフにつながっている。

 

ベロが列記しているのは、ミセス・ダンドレイドの恋人か「客」らしき架空の人物名。

 

人名の意味にはあまり深みはないよう。

 

Laci Daremoは イタリア語 "Là ci darem la mano"「お手をどうぞ」をもじっている。モーツァルトのオペラ『ドン・ジョヴァンニ』(第1幕第9場)でドン・ジョヴァンニがツェルリーナを誘う二重唱で、ブルーム氏の妻モリーが、不倫相手ボイランの興行する演奏旅行で歌う予定の曲。

 

ゴードン・ベネット・カップ (Gordon Bennett Cup) は、1900年から1905年にかけて6度開催された国別対抗自動車レース。「ニューヨーク・ヘラルド」の社主で、パリ在住の大富豪であったジェイムズ・ゴードン・ベネット・ジュニア (James Gordon Bennett Jr.) の発案により創設。小説の現在、1904年6月16日の翌日ドイツで開催された。

 

Henri Fleuryはブルーム氏がマーサ・クリフォードとの秘密の文通で使っている偽名Henry Flowerのもじり。

 

シャム猫も笑うんじゃないか」“Christ, wouldn’t it make a Siamese cat laugh?” は「猫も笑うほど」“It is enough to make a cat laugh.” というフレーズを変形しており、これは「とんでもなく可笑しい」の意味。

 

英国人ブランドン・トーマス(Brandon Thomas)作の笑劇『チャーリーの叔母さん』(Charlie's Aunt)の1893年ブロードウェイ公演の広告に由来するフレーズという。

 

歌舞伎・御摂勧進帳(ごひいきかんじんちょう)から「お臍でお仙が茶を沸かす」を持ってきた。

 

『チャーリーの叔母さん』のシドニー公演の広告( Everuone誌 1931年)

 “enough to make a cat laugh.”の文字が見える。

Vol.12 No.576 (4 March 1931) (nla.gov.au)

 

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