Ulysses at Random

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』をランダムに読んでいくブログです

90 (U54.432)

台所の窓辺で動揺しつつも笑みを浮かべた。

 

第90投。54ページ、432行目。

 

 

 He smiled with troubled affection at the kitchen window. Day I caught her in the street pinching her cheeks to make them red. Anemic a little. Was given milk too long. On the Erin’s King that day round the Kish. Damned old tub pitching about. Not a bit funky. Her pale blue scarf loose in the wind with her hair.

 

 台所の窓辺で動揺しつつも笑みを浮かべた。あの子が頬をつねって赤くしているのを街で見かけたことがあった。少し貧血気味。牛乳を長く飲ませすぎた。エリンズ・キング号でキッシュを周回したっけ。ひどいおんぼろ船はえらく上下した。あの子は全然平気。淡いブルーのスカーフが髪と一緒に風になびく。

 

第4章.ブルーム家の朝、ブルーム氏は、娘のミリーから届いた手紙を読んだところ。ミリーは昨日15歳になったばかりで家を離れて働いている。

 

牛乳を乳児期に与えると貧血になりやすいということが昔から知られている。

 

牛乳にはカルシウムとリンが含まれていますが、カルシウムとリンと鉄が結合して複合体をつくり腸での鉄吸収がおさえられるという。鉄分は、赤血球に含まれるヘモグロビンを生みだすのに欠かせない成分であり、血液中のヘモグロビンが下がることで貧血となってしまうとのこと。

 

ブルーム氏は、娘と蒸気船エリン・キングズ号に乗って、キッシュの灯台船まで行ったことを思い出している。

 

エリンズ・キング号については、IRELAND'S SAILING, BOATING & MARITIME MAGAZINE に記事があった。

 

  • エリンズ・キング号は、もともとヘザー・ベル号(Heather Bell)という名前の蒸気船で、1865年リバプールで建造された。英国のワラシー(Wallasey)市の保有で、ワラシー、リバプール間を結ぶフェリーとして使われていた。

  • 1891年、950ポンドで個人に売却され、エリン・キング号と改名。ダブリン湾の観光周遊船として運行されるようになった。

  • その周遊航路は、ダブリンの税関河岸 (Custom's House Quay)  を発着しキッシュの灯台船を巡るものだった。

  • 1900年に解体されている。

 

小説の現在は1904年であり、ブルームとミリーが出かけたのは1900年以前ということになるが、いつのことか、小説からは分からない。

 

ダブリン沖にはキッシュバンクと呼ばれる砂州があり、船舶の難破の危険性があるため、1811年より灯台船 (lightship)が設置されていた。灯台船は、灯台の役割をする船。灯台を建設するには水深が深すぎる場所で使用され、海上交通路を示す。1965年には灯台が建設され、灯台船から役目を引き継いだ。

                             

        キッシュの灯台

https://coastmonkey.ie/kish-lighship/

 

“tub” にはいろいろな意味がある。ここは  “a slow-moving, clumsy ship or boat”(Collins dictionary)の意味だろう。

 

エリンズ・キング号は廃船間際の第2の人生なのだから整合する。

 

とすると ”pitch” は「縦揺れ」。

 

“funky” もいろんな意味があるが、つながりからいうと「おびえる」の意。

 

ミリーとエリンズ・キング号に乗ったことは、ブルーム氏の幸せな思い出で、このことを今日何度も思い出すことになる。

 

第8章、エリンズ・キング号からカモメにケーキを投げたことを思いだす。

 

He threw down among them a crumpled paper ball. Elijah thirtytwo feet per sec is com. Not a bit. The ball bobbed unheeded on the wake of swells, floated under by the bridgepiers. Not such damn fools. Also the day I threw that stale cake out of the Erin’s King picked it up in the wake fifty yards astern. Live by their wits. They wheeled, flapping.

(U125.60)

 

第13章.灯台守に古新聞を投げてやったことを思いだす。

 

He lay but opened a red eye unsleeping, deep and slowly breathing, slumberous but awake. And far on Kish bank the anchored lightship twinkled, winked at Mr Bloom. Life those chaps out there must have, stuck in the same spot. Irish Lights board. Penance for their sins. Coastguards too. Rocket and breeches buoy and lifeboat. Day we went out for the pleasure cruise in the Erin’s King, throwing them the sack of old papers. Bears in the zoo.

(U310.1184)

 

第15章.ブルームのミイラが落下する海を、エリンズ・キングズ号が航行する。

 

THE DUMMYMUMMY: Bbbbblllllblblblblobschbg!

 (Far out in the bay between Bailey and Kish lights the Erin’s King sails, sending a broadening plume of coalsmoke from her funnel towards the land.)

(U449.3382)

 

第16章.船乗りとの会話で、キッシュの灯台船のあたりで海が荒れ船が揺れたことを思いだす。

 

…the Irish lights, Kish and others, liable to capsize at any moment, rounding which he once with his daughter had experienced some remarkably choppy, not to say stormy, weather.

(U515.650)

 

ブルーム氏にとって、娘のミリーや13章のガーティーたち少女は浜辺、海と結びついている。

 

そしてエリンズ・キング号は、娘との思い出であるとともに、モノの投下と、上下揺れの運動に結びついている。

 

ヘザー・ベル時代のエリンズ・キング号

Photograph of Heatherbell, Borough of Wallasey | National Museums Liverpool (liverpoolmuseums.org.uk)

 

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