Ulysses at Random

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』をランダムに読んでいくブログです

94 (U382.1120)

ブルーム:(身震いし、縮こまり、両手を組み合わす。卑屈な物腰で。)

 

第94投。382ページ、1120行目。

 

 BLOOM: (Shuddering, shrinking, joins his hands: with hangdog mien.) O cold! O shivery! It was your ambrosial beauty. Forget, forgive. Kismet. Let me off this once. (He offers the other cheek.)

 

 MRS YELVERTON BARRY: (Severely.) Don’t do so on any account, Mrs Talboys! He should be soundly trounced!

 

 THE HONOURABLE MRS MERVYN TALBOYS: (Unbuttoning her gauntlet violently.) I’ll do no such thing. Pigdog and always was ever since he was pupped! To dare address me! I’ll flog him black and blue in the public streets. I’ll dig my spurs in him up to the rowel. He is a wellknown cuckold. (She swishes her huntingcrop savagely in the air.) Take down his trousers without loss of time. Come here, sir! Quick! Ready?

 

 BLOOM: (Trembling, beginning to obey.) The weather has been so warm. 

 

 

 ブルーム:(身震いし、縮こまり、両手を組み合わす。卑屈な物腰で。)ああ寒い。震える。貴方の神々しい美貌のせい。忘れて。許して。これも宿命か。でも今度ばかりは見逃して。(もう一方の頬を差し出す)

 

 ミセス・イェルバートン・バリー:(厳しく。)絶対に許さないで。ミセス・トールボイズ。うんと懲らしめて。

 

 ミセス・マーヴィン・トールボイズ閣下:(長手袋のボタンを勢いよく外し。)もちろん。生まれついての豚犬め。この私に言い寄るとは。表通りで青あざができるまで鞭で打ってやる。拍車の歯がめり込むほど蹴ってやる。天下の寝取られ男。(狩猟用の鞭をひゅっと荒っぽく鳴らす)今すぐズボンを脱がせて。こっちよ、あなた、早く。いいかい。

 

 ブルーム:(震えながら、従う動作。)このところとっても暖かくなってきましたし。

 

 

 

第15章。幻想と現実が交錯する。ブログの第87回のところで、夜警に尋問されたことをきっかけにブルーム氏の裁判が始まる。それに続く一場面。3人の上流婦人、ミセス・イェルバートン・バリー、ミセス・べリンガム、ミセス・マーヴィン・トールボイズが、ブルーム氏から卑猥な手紙を送られたことなどを告発する。

 

ブルーム氏が実際にそのようなことをしたわけでなく彼の深層心理が幻想場面に表れているのだろう。

 

ミセス・マーヴィン・トールボイズ閣下はこのようないで立ち。

 

 THE HONOURABLE MRS MERVYN TALBOYS: (In amazon costume, hard hat, jackboots cockspurred, vermilion waistcoat, fawn musketeer gauntlets with braided drums, long train held up and hunting crop with which she strikes her welt constantly.) …

(U381.1058)

 

アマゾンというはギリシア伝説で,黒海沿岸あたりに住むとされた女戦士の種族のことで、これにちなんで女性の狩猟用乗馬服amazon costume と呼ばれる。シルクハットに、拍車付ブーツ、長手袋、長い裾、狩猟用鞭

 

ネット上の辞書(https://www.finedictionary.com/)で amazon を検索すると下の画像が得られた。これはフランスのイラストレーター、ジョルジュ・バルビエ(George Barbier、1882 - 1932)のファッションプレート、「今日のモードと着こなし」 Modes et Manières d'Aujourd'hui(1922)の一葉。なんと、これがまさにミセス・マーヴィン・トールボイズの衣装と一致する。

 

             

 

この場面はわからないことが多い。

 

まず、なぜブルーム氏が寒がっているのか。小説の今は6月。

 

”Kismet” はオスマントルコ語に由来し「宿命、運命」の意。この小説に何回か出てくる。なぜブルーム氏がここで使うのかよくわからない。

 

彼が、頬を差しだすのは、「マタイ伝」(第5章39節)に基づく。

「されど我は汝らに告ぐ、惡しき者に抵抗ふな。人もし汝の右の頬をうたば、左をも向けよ。」

“But I say unto you, That ye resist not evil: but whosoever shall smite thee on thy right cheek, turn to him the other also.”

 

”pigdog” はスラングで「卑しむべき人物」 “A contemptible or worthless person”.

 

ブルーム氏が、さっきは寒いといっていたのに「お天気はこのところとても暖かい」といいだすのもよくわからない。ズボンを脱ぐのがいやということだろうか。

 

このブログの方法については☞こちら