Ulysses at Random

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』をランダムに読んでいくブログです

103 (U443.3210)

ベロ:死んじまえ、お前に少しの良識や自尊心でもあるならな。

第103投。443ページ、 3210行目。

 

 BELLO: Die and be damned to you if you have any sense of decency or grace about you. I can give you a rare old wine that’ll send you skipping to hell and back. Sign a will and leave us any coin you have! If you have none see you damn well get it, steal it, rob it! We’ll bury you in our shrubbery jakes where you’ll be dead and dirty with old Cuck Cohen, my stepnephew I married, the bloody old gouty procurator and sodomite with a crick in his neck, and my other ten or eleven husbands, whatever the buggers’ names were, suffocated in the one cesspool. (He explodes in a loud phlegmy laugh.) We’ll manure you, Mr Flower! (He pipes scoffingly.) Byby, Poldy! Byby, Papli!

 ベロ:死んじまえ、お前に少しの良識や自尊心でもあるならな。レア物の古ワインをのませて地獄めぐりさせてやることもできるんだぜ。遺言に署名して有り金ぜんぶ渡しな。持っていなけりゃ、なんとか工面しな、盗んで来い、かっぱらって来い。裏の茂みの便所に埋めてやる、おれの元旦那で、腹違いの兄弟の息子、痛風病みの変態じじい、首の筋を違えたクック・コーエンといっしょに汚物にまみれてくたばっちまえ、おまけに10人やそこらの元夫と、奴らの名前はどうでもいいさ、いっしょにくそ溜めで溺れさせてるさ。(痰のからんだ笑いを放ち)ミスター・フラワー、肥やしをやるぜ(甲高い声で嘲る)バイバイ、ポールディー。バイバイ。パパりん。

 

ちょうど前々回の場面で登場した、娼館の女主人ベラ・コーエンが、男性化し、ベロとなって、ブルーム氏を罵倒している場面。第12章の語り手の批評的罵倒と、第15章のベロの対面的罵倒は双璧の過激な口語表現。

 

ブルーム氏の自虐的な深層心理が幻想として具現化していると思われる。昼間の出来事が変形されて夢を見るように、今日の出来事がもとになっているようだ。

 

"… and be damned" は「…しちまえ」と言うくらいの感じかと。

”… to you”  がわからない。"… by yourself"  ということだろうか。

 

"go to hell and back" で「非常に不快、苦痛、困難を経験する」との意味がある。

なぜ "a rare old wine" でそうなるのか分からない。おそらく、第8章で、ブルーム氏が飲んだブルゴーニュワインに由来するのだと思うが。

 

"sign a will"  というのも、第8章でブルーム氏が、決して署名しないと噂されていることをからかっているように思う(88回参照)。

"jakes"とは、スラングで屋外に設けられた便所(一般には"outhouse"「外便所」という)のこと。北米では"John"というらしい。ともに人名にかかわるが、由来については検索したが確たることはわからない。

 

ブルーム氏は、今朝、第4章の場面で、自宅の離れの便所を使っていて、これは jakes と呼ばれている。ここから呼び出されたものと考えられる。

 

He kicked open the crazy door of the jakes. Better be careful not to get these trousers dirty for the funeral. 

(U56.494)

He pulled back the jerky shaky door of the jakes and came forth from the gloom into the air.

(U57.539)

 

「便所に埋められて溺れ死ぬ」というのはもちろん、第6 章のディグナムの埋葬から連想されている。ブルーム氏はまた「溺死は一番気持ちのいい死に方」と思っている。

 

Earth, fire, water. Drowning they say is the pleasantest.

(U94.887-)

 

”Poldy!” はブルーム氏の名前レオポウルドの愛称で、妻のモリーが彼をこう呼ぶ。

”Byby,” ” Papli!” は、今朝、第4章の場面で受け取った、娘のミリーの手紙において、ミリーがブルーム氏に呼びかける言葉。

 

Dearest Papli

(本文略)

                    Your fond daughter

                        Milly

P.S. Excuse bad writing am in hurry. Byby.

                        M.

(U54.397‐414)

 

ミスター・フラワーはブルーム氏が秘密の文通で使っている彼の偽名。肥やしをやるというのはフラワーに因んで。ブルーム氏は第4章で便所に行く時に、肥料としての鶏や牛の糞のことを考えている。

 

The hens in the next garden: their droppings are very good top dressing. Best of all though are the cattle, especially when they are fed on those oilcakes. Mulch of dung.

(U55.478-)

 

ベロが甲高い声を出すのは、モリーやミリーの声をまねているのだ。

 

        

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Pahnila_Outhouse_Simo_20090630.JPG

 

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