Ulysses at Random

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』をランダムに読んでいくブログです

116 (U55.467)

重苦しい。暑い日になるな。

第116投。55ページ、 467行目。

 

 Heaviness: hot day coming. Too much trouble to fag up the stairs to the landing.

 

 A paper. He liked to read at stool. Hope no ape comes knocking just as I’m.

 

 In the tabledrawer he found an old number of Titbits. He folded it under his armpit, went to the door and opened it. The cat went up in soft bounds. Ah, wanted to go upstairs, curl up in a ball on the bed.

 

 

 重苦しい。暑い日になるな。階段を踊り場まで上がるとくたくたになる。

 

 なにか読むもの。便座の読書を好む。途中で阿呆がノックしなけりゃいいが。

 

 テーブルの引き出しに『ティット・ビッツ』の古い号を見つけた。折りたたんで脇に挟む。戸口へいって扉を開けた。猫がふわりと駆け上がっていった。あらら上に行ってベッドで丸くなりたかったんだね。

 

第4章。ブルーム家の朝の場面。ブルーム氏は地階にある台所で豚の腎臓のソテーに、紅茶とバタートーストを食べた。

 

朝食を食べでトイレに行きたくなった。「階段を踊り場まで上がるとくたくたになる。」というのはブルーム家の上階の踊り場にトイレがあることをうかがわせる。しかし彼は裏庭にある離れの「外便所」で用を足すことにした。

 

ジョージアンハウス博物館The Number Twenty Nine house on Dublin’s Lower Fitzwilliam Streetの間取りでいうと、〇印の所に扉があり、ここを開けて家の裏に出るとのイメージ。ブルーム家の間取りと同じではないが。

 

 

彼が便所で読もうとしている“Tit-Bits”「ティット・ビッツ」は1881 年 に大衆ジャーナリズムの創始者であるジョージ・ニューンズ(George Newnes  1851 – 1910)によって創刊された英国の週刊誌。

こういうもの → Villanova Univ.

 

Tit-Bits from all the interesting Books, Periodicals, and Newspapers of the World, v. 46, no. 1,186, July 9, 1904.

 

マンチェスター近郊で小間物のセールスマンをしていたジョージ・ニューンズはある時、ちょっとしたことから当時の一般庶民がいかにニュースに飢えているかを知った。彼らは身近な出来事から遠い異国の様子まで、大きなことからこまごました事まで何でも知りたがっていた。そこに目をつけたアイデアマンのニューンズはティット・ビッツ(豆記事)という誌名つけた週刊誌を、1881年に発刊した。

  河村幹夫『シャーロック・ホームズの履歴書』(講談社新書、1994年)

 

ニューンズは、シャーロック・ホームズの物語が掲載された月刊誌「ストランド・マガジン」を1891年に創刊している。

 

今回の個所の文章は難しくないが、逆に気がつかされた。この小説の語りがどうなっているのかについて。いまさらですが。

 

“He liked to read at stool.” というのは、誰がいっているのだろう。

 

〈作者(ジョイス)がわたしたちに語る〉「彼は便所で読むのを好んだ」だろうか。

〈ブルーム氏は思った〉「俺は便所で読むのが好きだ」だろうか。

 

後者なら英語の授業で習った描出話法とか自由間接話法というやつかと思う。

 

作者は、意図的にどちらにもとれるように書いていると思われる。だからどちらにもとれるように訳さないといけないのだろう。

 

なお、今回のところの他の文は、作者の語りか、ブルーム氏の語りかに分けられるので、ややこしくない。

 

ブルーム家には猫がいて、彼の開けた扉から飛び出し、妻のモリーのいる1階のベッドルームへ向かって、階段を上がっていった。

 

猫は黒猫。第5章のブルーム氏の空想でわかる。

 

Mrs Marion Bloom. Not up yet. Queen was in her bedroom eating bread and. No book. Blackened court cards laid along her thigh by sevens. Dark lady and fair man. Letter. Cat furry black ball. Torn strip of envelope.

(U61.156)

 

ブルーム氏は、今日ディグナムの葬儀に行くので黒服を着ており、もう一人の主人公のスティーヴンは1年前に死んだ母親の喪に服して黒服を着ている。黒猫は、2人の男の黒服につながる。また、スティーヴンの住居に居候のイングランド人、ヘインズが前の晩に夢にみた「黒豹」とも。

 

"cat coming up stairs" by cclogg is marked with CC0 1.0.

 

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