Ulysses at Random

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』をランダムに読んでいくブログです

170(U170.847)ー 不得不説

いったい何を言おうとしてるんだ。

 

第170投。170ページ、847行目

 

 What the hell are you driving at?

 I know. Shut up. Blast you. I have reasons.

 Amplius. Adhuc. Iterum. Postea.

 Are you condemned to do this?

 

 いったい何を言おうとしてるんだ。

 分かってる。黙っとけ。ちくしょう。言わないではすまない。

 而且。仍然。再次。之後。

 そういう定めなのか。

 

第9章。国立図書館の一室で、副主任でエッセイストのジョン・エグリントン、副主任で学者のリチャード・ベスト、そして主人公のスティーヴンがシェイクスピアについて議論している。

 

ティーヴンの説は、「シェイクスピアは自分を、ハムレットの父で殺された先の王に投影している」というもの。しかし彼はその説を信じているのかわからない。主張することを演じているようだ。

 

そのため、自分を鼓舞する内心の声がさしはさまれる。

 

例えばブログの第126回 では“I think you’re getting on very nicely.…” といったところがあった。

 

今回のフレーズも彼の自問自答。

 

“drive at” は「..を意味する」「...に言及する」という意味がある。

 

”Blast you!” は "May God Blast you!"  の省略で罵倒語。第148回では、ネッド・ランバートがクシャミをしたときに言っていた。

 

"Amplius. Adhuc. Iterum. Postea." Giffordの注釈によると、中世のスコラ学者が論述のときに用いた、ラテン語の修辞用語。どれも、”furthermore, heretofore, once again, hereafter”「更に、その上、再び、そして」と言った同じような意味とのこと。ラテン語は日本語にとっては漢文なので、訳は中国語にした。

 

実際これらが、どのように使われるのか見てみなければならい。ブログの第133回にでてきた『対異教徒大全』(Summa contra Gentiles)というのを見てみた。

 

『対異教徒大全』は、中世イタリアの神学者、哲学者トマス・アクィナス(Thomas Aquinas、1225年頃 - 1274年)の著書で、ジョイスが読んでいたと弟が書いている。

 

なるほど、こういう風に使われるのか。ラテン語の原文と英訳の対訳があったので、英訳を翻訳ソフトで和訳したものです。

→ Calibre Library

 

  Liber3 Caput 3
Quod omne agens agit propter bonum

第3巻 第3章
すべての行為者は善のために行動する

1 Ex hoc autem ulterius ostendendum est quod omne agens agit propter bonum. 次に、すべての行為者が善のために行動することを示さなければならない。
2 (略) (略)
3 Praeterea. Finis est in quo quiescit appetitus agentis vel moventis, et eius quod movetur. Hoc autem est de ratione boni, ut terminet appetitum: nam bonum est quod omnia appetunt. Omnis ergo actio et motus est propter bonum. 再び、目的とは、行為者または動かす者、そして動かされたものの欲求的な傾きが落ち着きを見出すものである。 さて、善の本質的な意味は、欲求に終着点を与えることである、善とはすべての者が欲するものだからである。したがって、すべての行為と運動は、善のために行われる。
4 Adhuc. Omnis actio et motus ad esse aliquo modo ordinari videtur: vel ut conservetur secundum speciem vel individuum; vel ut de novo acquiratur. Hoc autem ipsum quod est esse, bonum est. Et ideo omnia appetunt esse. Omnis igitur actio et motus est propter bonum. その上、あらゆる行為や運動は、それが種や個体において維持されるように、あるいは新たに獲得されるように、何らかの形で存在に向かって秩序づけられていることがわかる。存在するという事実そのものが善なのだから、万物は存在することを望む。したがって、あらゆる行為や運動は善のために行われる。
5 Amplius. Omnis actio et motus est propter aliquam perfectionem. Si enim ipsa actio sit finis, manifestum est quod est perfectio secunda agentis. (略). Hoc autem dicimus esse bonum quod est esse perfectum. Omnis igitur actio et motus est propter bonum. さらに、すべての行為と運動は、何らかの完全性のために行われる。行為そのものが目的であっても、それが行為者の二次的な完成であることは明らかである。(略) さて、私たちは完全なものを善と呼ぶ。だから、すべての行為と運動は善のためにある。
6 Item. Omne agens agit secundum quod est actu. Agendo autem tendit in sibi simile. Igitur tendit in actum aliquem. Actus autem omnis habet rationem boni: nam malum non invenitur nisi in potentia deficiente ab actu. Omnis igitur actio est propter bonum. そして、すべての行為者は、それが行為中である限りにおいて行為し、行為することで、自分自身と同じような何かを生み出そうとする。つまり、何らかの行為に向かう傾向がある。しかし、すべての行為はその本質的な性格において善の何かを持っている。したがって、すべての行為は善のためにある。

 

トマスは "Iterum" のかわりに "Item"、"Postea" ではなく "Praeterea" 使っている。しかしいずれも同じような意味となる。

 

フィリピーノ・リッピ 『聖トマス・アクィナスの勝利』(1489-1491) 

File:Filippino Lippi, Carafa Chapel, Triumph of St Thomas Aquinas over the Heretics 02.jpg - Wikimedia Commons

 

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