Ulysses at Random

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』をランダムに読んでいくブログです

243 (U489.4702) - 犬は神の愛を映す

マラカイ・オフリン神父:我將至魔鬼之祭壇。

第243投。489ページ、4702行目。

 

 FATHER MALACHI O’FLYNN: Introibo ad altare diaboli.

 

 THE REVEREND MR HAINES LOVE: To the devil which hath made glad my young days.

 

 FATHER MALACHI O’FLYNN: (Takes from the chalice and elevates a blooddripping host.) Corpus meum.

 

 THE REVEREND MR HAINES LOVE: (Raises high behind the celebrant’s petticoat, revealing his grey bare hairy buttocks between which a carrot is stuck.) My body.

 

 THE VOICE OF ALL THE DAMNED: Htengier Tnetopinmo Dog Drol eht rof, Aiulella!

 

 

マラカイ・オフリン神父:我將至魔鬼之祭壇。

 

ミスタ・ヘインズ・ラヴ師わがよろこびよろこぶ悪魔にゆかん。

 

マラカイ・オフリン神父:(聖杯から血滴る聖体を掲げて)此即吾身體也。

 

ミスタ・ヘインズ・ラヴ師:(執行司祭のペチコートを後ろから高くまくり上げ、灰色の毛むくじゃらの裸の臀部を露わにすると、尻には人参が挟まっている。)これは我が體なり。

 

すべての呪われたものたちの声:腫れるや、われら卑しの噛みを恐るるものなり。

 

 

 

第15章の終盤。夜中。ブルーム氏とスティーヴンはベラ・コーエンの娼館を出たところ。この章は戯曲の形式で非現実の幻想場面が展開する。

 

第1章の冒頭、スティーヴンと友人のマリガン、居候のヘインズが住むマーテロー塔を舞台にし、マリガンがミサのまねごとをするが、ここはその場面をベースとして、黒ミサ(キリスト教会に反逆する悪魔崇拝者の儀式)が行われている。

 

マラカイ・オフリン神父とは、マリガンとオフリン神父の合成。

 

マリガンの本名はマラカイ・ローランド・セント・ジョン・マリガン(Malachi Roland St John Mulligan)で、これは第14章で明らかになる。(U341.1213)

 

オフリン神父は、アルフレッド・パーシヴァル・グレイヴズ(Alfred Perceval Graves)の曲「The Top of the Cork Road」(1874年)に付けられてポピュラーになった歌詞に登場する人物。

歌詞こちら → The Traditional Tune Archive

 

オフリン神父を描いたポストカード

 

ミスタ・ヘインズ・ラヴ師は、マリガンの友人の英国人ヘインズとプロテスタントの聖職者のヒュー・ラヴ師の合成。

 

ヘインズはオックスフォードの学生でアイルランドの民間伝承を研究するためアイルランドに滞在している。またラヴ師も、アイルランド史を研究していてフィツジェラルド家の本を書こうとしている人物。ラヴ師はファーザー・カウリーの大家さんでもある。

 

初めの2人の台詞は、カトリック教会のミサの冒頭、「祭壇の足元での祈り」(Prayers at the Foot of the Altar)で、司祭と侍者によって交互に唱えられるラテン語の聖句に基づいている。言葉は『詩篇』43篇4節から来ている。

 

Et introibo ad altare Dei,

Ad Deum qui laetificat juventutem meam

 

さらばわれ神の祭壇にゆき

又わがよろこびよろこぶ神にゆかん

→ Praying Latin

 

第1章で、マリガンはこの通り唱えていた。

Introibo ad altare Dei.

(U3.5)

 

ここで、オフリン神父とラヴ師は、「神」を「悪魔」に変えている。オフリン神父はカトリックに対応しラテン語、ラヴ師はプロテスタントで英語なのだ。ラテン語のところは漢文にして訳した。

 

“Corpus meum”もラテン語で、やはりミサにおける「聖体の奉献」(the Consecration of the Host)の際、司祭が聖体を掲げながら述べる句 。

Hoc est enim corpus meum

これはわが体なり

の一節。『マタイ福音書』の26章26節がもとになっている。

→ Praying Latin

 

「ペチコートをまくり上げる」のはこの小説全体を通じたモティーフの一つになっていてこのブログの第68回でまとめた通り。ここはとりわけ、第1章でマリガンの唄う戯れ歌に結びついている。

 

—For old Mary Ann

She doesn’t care a damn.

But, hising up her petticoats...

 

(U18.384)

 

最後の呪われた者たちが唱和するのは

Htengier Tnetopinmo Dog Drol eht rof, Aiulella!

これは

Alleluia, for the Lord God Omnipotent Reigneth!

ハレルヤ全能の主、われらの神は統治(すべし)らすなり。

を逆転したもの。

 

元になっているのは『ヨハネ黙示録』19章6節で、ヘンデルのオラトリオ『メサイア』の中の有名な「ハレルヤ・コーラス」の主要な歌詞としても有名なもの。

 

逆にすると意味不明になるが、 ”God” が ”Dog” になってしまうところがポイントである。どう訳すかさんざん考えたが、同音で聖俗二義にとれる文をでっちあげて後者をつかった。「卑しの噛み」で犬を表したつもり。

 

ハレルヤ、われら癒しの神を畏るるものなり

腫れるや、われら卑しの噛みを恐るるものなり

 

この世は我が足下にあり

"Pawed Earth - Maapallo tassun alla" by smerikal is licensed under CC BY-SA 2.0.

 

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