トネリコの杖の握りで肩甲骨を叩きながら、
第27投、199ベージ 831行目。
Stephen went down Bedford row, the handle of the ash clacking against his shoulderblade. In Clohissey’s window a faded 1860 print of Heenan boxing Sayers held his eye. Staring backers with square hats stood round the roped prizering.
トネリコの杖の握りで肩甲骨を叩きながら、スティーヴンはベッドフォード小路を下っていった。クロヒッシ―のウインドウに、1860年ヒ―ナンがセイヤーと闘うボクシングの色あせた版画があるのが、ちらりと目に留まった。四角い帽子の賭け手たちがロープを張ったリングを丸く囲んで見つめる。
第10章。第6回のブログのすぐ前の所。スティーヴンがベッドフォード通りを河岸のほうへ歩いている。
クロヒッシ―は本屋。
held his eye の eye が単数形なのに気がつく。これは、ちらっとみた、ということではないか。
keep an eye on は「ちょっと見ておいて」
keep your eyes on は「目を離すな」という意味である由。
アメリカ人のジョン・キャメル・ヒーナン(1834 – 1873)と英国人のトム・セイヤーズ (1826 – 1865) のボクシング試合は、1860年4月17日ロンドンから数キロ南にあるハンプシャー州ファーンバラで行われた。初めての国際タイトル試合と考えられている。2人の偉大なチャンピオンの試合は、大西洋の両側で熱狂的な関心を持って迎えられた。
当時、ボクシングはベアナックルボクシングと呼ばれ、素手で戦われ、ノックダウンするまで試合は続いた。そして違法だった。
34歳のセイヤーズ、66キロ172センチ、に対し。26歳のヒ―ナン、88キロ188センチ、で年齢体格ともにセイヤーズには不利であった。
試合はもちろん賭けの対象でありリングの周りの牧草地には、12,000人の観客が集まった。死闘は2時間27分続く。警官の介入があったのちも、さらに5ラウンド戦われ、最終的にはレフリーにより引き分けとされた。
『ユリシーズ』で何度も言及されるもう一つのボクシング試合は、小説の現在、1904年6月16日からは、ついこのあいだ、5月22日に行われたキーオウ対ベネット戦である。アイルランド出身のキーオウが、英国特務曹長ベネットを打ち負かした。キーオウは実際のボクサーだがベネットは架空のボクサーである。
ヒ―ナン対セイヤーズは伝説の英米対抗戦であるの対し、キーオウ対ベネットは現在のイングランド―アイルランドの対抗戦といえる。小説にナショナリズムの主題を導入している。
square hat というのが何かわからないが、絵を見ると、シルクハットのことのようだ。square と round を対にしているのだ。こういうところが実に見事。
"VICTOR DUBREUIL (American, active 1880 - 1910). The International Contest between Heenan & Sayers, circa 1880s" by Diversity Corner is licensed under CC BY-NC 2.0
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