Ulysses at Random

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』をランダムに読んでいくブログです

135(U290.280)

おばかシスのゴリウオッグの縮れっ毛。

第135投。290ページ、280行目。

 

 Madcap Ciss with her golliwog curls. You had to laugh at her sometimes. For instance when she asked you would you have some more Chinese tea and jaspberry ram and when she drew the jugs too and the men’s faces on her nails with red ink make you split your sides or when she wanted to go where you know she said she wanted to run and pay a visit to the Miss White. That was just like Cissycums. O, and will you ever forget her the evening she dressed up in her father’s suit and hat and the burned cork moustache and walked down Tritonville road, smoking a cigarette. There was none to come up to her for fun. But she was sincerity itself, one of the bravest and truest hearts heaven ever made, not one of your twofaced things, too sweet to be wholesome.

 

 おばかシスのゴリウオッグの縮れっ毛。しょっちゅう笑わされてしまいます。中国紅茶とジャズベリー・ラム、もっといかがって言ったり、水差しを握った爪にみんな赤インクで人の顔が描いてあったり、お腹の皮がよじれてしまう。ご存じのところへ行くときに、ミス・ホワイトのところに急いで行ってこなくちゃといったり。これなんかシシ唐辛子の機智ね。ああ、あの晩のことを忘れられるでしょうか。父親のスーツを着て、コルクを焼いた炭で髭を描いて、煙草をふかしてトライトンヴィル・ロードをやってきた。おふざけで彼女にかなう人はいない。でも彼女は真面目そのもの。天が創造した最も勇敢で誠実な心の持ち主。二心ある人でも、甘すぎて体に悪いような人でもない。

 

第13章。午後8時。サンディマウントの海岸。三人の少女ガーティーマクダウェル、イーディー・ボードマン、シシー・キャフリーが子供のおもりをしている。

 

この章の前半は、婦人雑誌に載る小説の文体で書かれているという。今回の個所はまさにその文体なのだろうけれど、他の章と違って、私にはいまひとつ面白さは分からない。

 

シス(Ciss)はシシー・キャフリー(Cissy Caffrey)。

 

“madcap”は辞書では「向こう見ずな、血気にはやる、衝動的な」とある。文脈に合わないので「おばか」と訳した。ぐしゃぐしゃの髪という意味かもしれない。

 

 ゴリウォーグ(Golliwogg、Golliwog)は19世紀末にイギリスの児童文学者・挿絵画家フローレンス・ケイト・アプトンが考案した、真っ黒な顔でもじゃもじゃ頭のキャラクター。その後、当然ながらこの絵柄は差別的と問題になっている。クロード・ドビュッシーが1908年に発表したピアノ曲集『子供の領分』の第6曲目に『ゴリウォーグのケークウォーク』(⇒Youtube) があるので今でもよく知られている。

 

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:The_Adventure_of_Two_Dutch_Dolls_cover.png

 

ジャズベリー・ラム “jaspberry ram” はラズベリー・ジャム “raspberry jam” の言い間違い。

 

二つ以上の音節が連続するとき、 その前後で音が交代する言い違えのことを、スプーナリズム(spoonerism)という。日本語でいうと「夏は暑い」が「暑は夏い」になるようなこと。この言葉は、『ユリシーズ』の訳者である柳瀬尚紀さんの本で知った。

 

英語でスプーナリズムspoonerismと称される言い違えである。

bake a cake (ケーキを焼く)と言おうとして、

cake a bake (一焼きを固める)と言い違えるのが代表例。

(P.85   柳瀬尚紀広辞苑を読む』文春新書  1999年)

 

イギリスの古代史学者、神学者で長年オックスフォード大学で教えた、ウィリアム・アーチボルド・スプーナー(William Archibald Spooner、1844年 - 1930年)がこのような言い間違いをしたことに由来する。

 

スプ―ナー氏の戯画(1898年)

File:William Archibald Spooner Vanity Fair 1898-04-21.jpg - Wikimedia Commons

 

“run and pay a visit to the Miss White” とは「トイレに行く」の婉曲表現だろう。辞書には見つからない。

 

“Cissycums” はどう調べても意味が分からない。capsicum(トウガラシ)をもじっているのだろうか。とりあえずそう考えて訳した。

 

3人の少女は、サンディマウントの砂浜にいる。Tritonville roadは近くの通り。彼女らはこの通りに住んでいるのだろう。

 

ラズベリージャムとクロテットクリームをのせたハート形スコーン

File:HeartScone.jpg - Wikimedia Commons

 

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