Ulysses at Random

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』をランダムに読んでいくブログです

101 (U430.2749)

(ドアが開く。ベラ・コーエン、娼館の女主人の巨体が現れる。

 

第101投。430ページ、2749行目。

 

(The door opens. Bella Cohen, a massive whoremistress, enters. She is dressed in a threequarter ivory gown, fringed round the hem with tasselled selvedge, and cools herself flirting a black horn fan like Minnie Hauck in Carmen. On her left hand are wedding and keeper rings. Her eyes are deeply carboned. She has a sprouting moustache. Her olive face is heavy, slightly sweated and fullnosed with orangetainted nostrils. She has large pendant beryl eardrops.)

(ドアが開く。ベラ・コーエン、娼館の女主人の巨体が現れる。裾を折り返しで縁どった房付き七分丈のアイボリーのガウンを着て、カルメン役のミニ―・ホークみたいに黒い角製の扇をあおいで涼をとる。左の手には結婚指輪と止め指輪。目に黒々シャドーを入れ、口ひげが生えている。でっかいオリーヴ色の顔にうっすら汗をかいて、小鼻に橙色の染みのある鼻があぐらをかいている。大きな緑柱石のイヤリングをぶら下げて。)

 

第15章。夜中の。ブルーム氏はスティーヴンとリンチの2人を追って、夜の町の娼館へやってきた。娼館の女主人ベラ・コーエンが登場する場面の描写。

 

ミニー・ホーク(Amalia Mignon Hauck "Minnie" Hauk, 1851年 - 1929年)は、アメリカ出身のオペラ・ソプラノ歌手。14歳で、ブルックリンでベッリーニのオペラ『夢遊病の娘』(『ユリシーズ』でおなじみの作品だ。)でオペラ歌手としてデビュー。1878年ブリュッセルで、ジョルジュ・ビゼーのオペラ『カルメン』で主役を演じ、以降この役で大成功を収めた。

 

                             

        カルメンを演じるミニ―・ホーク

Minnie Hauk Collection | Lucerne University of Applied Sciences and Arts (hslu.ch)

 

キーパーリング "keeper ring" とは、ダイヤなどの宝石がはめられた高価な指輪が指から滑り落ちないよう、ストッパーの役割として重ねて着けるリング。

 

日本人にとってはオリーヴ色の顔というのは変な感じがするが、西洋ではオリーヴ色は肌の色を表すバリエーションの一つなのだそうだ。

 

「橙色の染みのある小鼻」というのも変だ。どうも色が意識的に用いられていると感じて、気がついた。緑柱石のイヤリング、象牙色のガウン、橙色の染み、これはアイルランドの、緑、白、オレンジの三色旗の色になっているのだ。

 

        

 File:Irish flag (220399586).jpg - Wikimedia Commons
               

小説の現在、1904年アイルランドは英国の一部なのでその国旗はない。しかしこの旗が民族主義の象徴として使用された記録は1830年にあり、国のシンボルとして初めて使われるのは1916年のイースター蜂起ということ。三色の旗のイメージは当時も存在したはず。

 

しかし、なぜベラ・コーエンに三色旗なのかはわからない。さらに再読してみなければ。

 

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