Ulysses at Random

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』をランダムに読んでいくブログです

78 (U296.530)

―何を考えているの。

 

第78投。296ページ、530行目。

 

 

   —A penny for your thoughts.

 —What? replied Gerty with a smile reinforced by the whitest of teeth. I was only wondering was it late.

 Because she wished to goodness they’d take the snottynosed twins and their babby home to the mischief out of that so that was why she just gave a gentle hint about its being late. And when Cissy came up Edy asked her the time and Miss Cissy, as glib as you like, said it was half past kissing time, time to kiss again. But Edy wanted to know because they were told to be in early.

 —Wait, said Cissy, I’ll run ask my uncle Peter over there what’s the time by his conundrum.

 

 

 ―何を考えているの。

 ―えっ、微笑むガーティーの真っ白な歯が輝く。もうかなり遅い時間かなって。

 なぜかというとあの二人が鼻ったれの双子と赤ちゃんを連れてとっとと家に帰ってほしいと思ったのでそれとなくもう遅い時間とほのめかしたのです。シシーが戻ってきたとき、イーディが今何時って聞いたら、ミス・シシーは減らず口で、そうね大体ねという。でもイーディーは早く帰るように言われたので何時か知りたかったのです。

 ―まって、とシシー、走ってってあそこのお金持ちのおじさんに發條式で何時か聞いてくる。

 

 

第13章。午後8時。サンディマウントの海岸。三人の少女が子供のおもりをしている。

 

イーディー・ボードマンは乳母車に赤ちゃんを乗せ,シシー・キャフリーは双子の弟トミーとジャッキーを連れてきている。イーディーが、ガーティーマクダウェルに話しかけたところ。

 

ここは何でもないシーンだが、意味を取るのが難しい。

 

“A penny for your thoughts.” とは「何を考えているのか教えてくれたら1ペニーあげる」ということから「何を考えているの?」という意味。

 

“wish to goodness …” は「ぜひ…であってほしい」の意。.

 

“to the mischief” がわからない。

 

ところで、今年はユリシーズ出版100年だからでしょう、オックスフォード大学出版局から新しい注釈本が出た。早速注文したのが届いた。

Annotations to James Joyce's Ulysses. Sam Slote, Marc A. Mamigonian and John Turner. Oxford University Press; 1st edition May 21, 2022.

                                                    

                                             

 

このSloteの注釈本をみてみると、mischief は devil の意とあった。「いたずら」ではないのだ。辞書をしらべると確かにこうある。

 

mischief:mis′chif (coll.) the devil, as in 'What the mischief,' &c

                   Chambers's Twentieth Century Dictionary

 

“go to the devil” は「くたばってしまえ, どこへでも行っちまえ」なので、“take … home to the mischief" は「…を家に連れて帰っちまえ」という意味になると思われる。

 

さらに ”out of that”  もSloteの注釈本によるとアイルランド英語で「直ちに」の意味とのこと。それで意味が通じる。

 

ちなみに、この本は1367ページ、5㎝の厚さの大著だが、Giffordの注釈と違って1段組で、字も大きいので、さほど詳細ではない。これまで謎だったところを引いてみたが明らかにはならなかった。『ユリシーズ』読解の楽しみが奪われることはなささそう。

 

さて、つづく “it was half past kissing time, time to kiss again” は、ネット検索するかぎり、どうも詩の一節のよう。子供向けの詩で有名なアメリカの作家ユージン・フィールド (Eugene Field Sr.   1850 – 1895) の詩、“Kissing Time” にこの句のリフレーンがある。

 

Sometimes, maybe, he wanders

⁠A heedless, aimless way—

Sometimes, maybe, he loiters

⁠In pretty, prattling play;

 But presently bethinks him

⁠And hastens to me then,

 For it's half-past kissing time

⁠And time to kiss again!

 

“uncle Peter” がよくわからない。 uncle は質屋という意味がある。金持ちのおじさんという意味になるのではないか。これは浜辺にいるブルーム氏のことである。

 

uncle:  A pawnbroker: so called in humorous allusion to the financial favors often expected and sometimes received from rich uncles.

                       Century Dictionary and Cyclopedia

 

“by his conundrum” の “conundrum” だが、このラテン語風のむずかしい単語は「なぞ、難題」という意味。ここの一節にあてはまらない。ブルーム氏の時計を指しているはずだが。思案したが、シシーは「時計の振り子」 “pendulum” のつもりで “conundrum” と言い違えたのではないか、とうのがとりあえずの解釈。

 

第13章は個性のある文体だが、その個性を味わう力がないのが残念。ほかの章は文体の面白さは、なんとなくわかるのだが。

 

            サンディマウントの海岸

"Looking South on Sandymount" by Michael Foley Photography is marked with CC BY-NC-ND 2.0.

 

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