Ulysses at Random

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』をランダムに読んでいくブログです

131(U515.621)

―ああ、あなたもあそこに寄港したことがあるんだね

第131投。515べージ、621行目。

 

 —Ah, you’ve touched there too, Mr Bloom said, Europa point, thinking he had, in the hope that the rover might possibly by some reminiscences but he failed to do so, simply letting spirt a jet of spew into the sawdust, and shook his head with a sort of lazy scorn.

 

 —What year would that be about? Mr B interrogated. Can you recall the boats?

 

 Our soi-disant sailor munched heavily awhile hungrily before answering:

 

 —I’m tired of all them rocks in the sea, he said, and boats and ships. Salt junk all the time.

 

 ―ああ、あなたもあそこに寄港したことがあるんだね、ブルーム氏は言った。エウローパ岬、放浪者の幾許かの回想が聴けるかと期待したのだが、当てが外れ、男はおが屑を撒いた床に吐出物を吐き出し、もの憂げに軽蔑を示しつつ首頷くのみだった。

 

 ―それはいつ頃のことですか、とB氏は査問した。ボートは覚えていますか。

 

 われらの自称船乗りは暫時むしゃむしゃと咀嚼したのち答えた。

 

 ―岩礁には飽きあきしたよ。彼は言った。ボートも船も。明けても暮れても塩漬肉だからな。

 

第16章。真夜中。娼館を後にしたブルーム氏はスティーヴンを介抱するため馭者溜りへとやってくる。ブルーム氏はそこにいた船乗りに話しかけたところ。

 

ブルーム氏は船乗りに、ジブラルタルの「ザ・ロック」(The Rock)を見たことがあるかと聞く。ザ・ロックジブラルタルの岬をなす山のような一枚岩のこと。ブルーム氏の妻のモリージブラルタルの生まれなのでブルーム氏は知識があるのだ。船乗りが曖昧な返事をしたあとこの一節につながる。

 

エウローパ岬ジブラルタルの最南端地点にある岬

 

"soi-disant" はフランス語で「自称」の意味。この章はエセ・インテリ風の文体で書かれていて、ラテン語やフランス語の常套句が多用される。

 

実際の船乗りかどうかも定かでないこの男は、噛みタバコを噛んでいる。酒場(ここは馭者の休憩所なので酒場ではないが)には掃除がしやすいようにおが屑がまいてあった。

 

彼は、おそれくジブラルタルが何かも知らないのだろう。ブルーム氏が「ザ・ロック」といったのを岩礁と理解しているようだ。

 

エウローパ岬。奥の山が、ザ・ロック

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Aerial_view_of_Europa_Point,_Gibraltar_MOD_45162692.jpg

 

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