Ulysses at Random

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』をランダムに読んでいくブログです

130 (U596.1948)

いかなる侮辱が随伴したか。

 

第130投。596ページ、1948行目。

 

 With which attendant indignities?

 

 The unsympathetic indifference of previously amiable females, the contempt of muscular males, the acceptance of fragments of bread, the simulated ignorance of casual acquaintances, the latration of illegitimate unlicensed vagabond dogs, the infantile discharge of decomposed vegetable missiles, worth little or nothing, nothing or less than nothing.

 いかなる侮辱が随伴したか。

 

 かつては好意的だった女性たちの冷淡な無関心、屈強な男性らの軽蔑、パンの断片の施し、気が置けない知己からの同調的無視、違法無鑑札の野良犬からの咆哮、児童からの腐敗した野菜、即ちほぼ無価値のまさに無価値以外の何ものでもない物体の投擲。

 

第17章は、始めから終わりまで問いと答えの形式により進行する。ここはブログの第46回の所のすぐあと。引き出しを開けたブルーム氏はそこにある資産の数々がもしなければどんな悲惨な境遇に陥るかを夢想する。

 

そして、その場合に自分がどんな侮辱を被るか、についての問いと答え。

 

このブログで何度かでふれたように、柳瀬尚紀さんは、第12章の語り手は「犬」であるとの説を述べておられる。(『ジェイムズ・ジョイスの謎を解く』 岩波新書、1996年)しかも鑑札(licence)という然るべき認定証を重んずる犬。そのことのヒントになるとして、ここを引用されている。(P.28)

 

柳瀬さんは「当時のダブリンの犬が鑑札を法的に義務づけられていたかどうかを確認するには、なにもイギリスの犬の鑑札の歴史に当たるまでもない。」という。とはいえ当時(1904年)ダブリンにおける犬の鑑札制度はどのようなものだったのか調べてみる。

 

検索した記事(→Linn‘s Stamp News)の要旨をまとめるとこの通り。

 

  1. アイルランドの犬規制法(The Dogs Regulation Act for Ireland)は1865年英国議会で可決され1866年より施行された。
  2. 放し飼いの犬のせいで家畜が殺される問題に対応するものであった。
  3. 同法によりアイルランドで犬を飼う場合、鑑札の取得が必要となった。
  4. 費用は、犬1匹あたり2シリング、鑑札そのものにつき6ペンスであり、鑑札に印紙を貼付する方法で費用が徴収された。鑑札の有効期間は1年。
  5. 2シリングの印紙の絵柄はアイリッシュ・ウルフハウンド、6ペンスの印紙には時の国王の肖像が描かれていた。
  6. これらの印紙は紙モノのマニアの蒐集アイテムとなっている。

 

Currency converter というサイトによると、当時の2シリングは現在の価値では約8ポンドで約1450円。6ペンスは同じく約2ポンドで、約360円。

 

 

 

犬の印紙(2シリング)

鑑札の印紙(6ペンス)この小説ではおなじみのエドワード7世

 

Ireland Dog Licence (ibredguy.co.uk)

これが犬の鑑札。1906年の3月に発行されていて、犬は黒いコリーのオス。

犬の鑑札に犬と王様の印紙が張ってあるなんで、思いもよらなかった。おもしろいなあ。

 

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