Ulysses at Random

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』をランダムに読んでいくブログです

122 (U126.83)

弱く羽ばたき輪を描く。もう投げないよ。

第122投。126ページ、.83行目

 

 They wheeled flapping weakly. I’m not going to throw any more. Penny quite enough. Lot of thanks I get. Not even a caw. They spread foot and mouth disease too. If you cram a turkey say on chestnutmeal it tastes like that. Eat pig like pig. But then why is it that saltwater fish are not salty? How is that?

 弱く羽ばたき輪を描く。もう投げないよ。1ペニーで十分。どういたしまして。カァーにも及ばず。こいつらも口蹄疫を伝染させる。七面鳥に、たとえばさ、栗の粉を食わせると栗の味になる。豚を食べると豚になる。じゃどうして魚は海水でしょっぱくならない。どうしたわけ。

 

第8章。昼飯前のブルーム氏。第104回で一度ふれたとおり、オコンネル橋のあたりで物売りの老婆から2つで1ペニーのバンベリーケーキを買い、リフィー川のカモメに投げた。その後の場面。

 

途中の“say on” の意味がよく分からない。辞書を調べると“say” には間投詞的に「たとえば」の意味があるとのことで、これと考えておく。

 

七面鳥に栗を食わして栗の味にする、なんていうことがあるのだろうか。フランスのクリスマス料理として、七面鳥の栗詰め(Dinde aux Marrons)といって七面鳥の中に栗を詰めて(cram)オーブンで焼く料理がある。ブルーム氏はこれを間違って理解しているのではないだろうか。

 

"Dinde aux marrons" by cuisineetmets is licensed under CC BY-NC-SA 2.0.

 

“foot and mouth disease”とは「口蹄疫」といって、牛、羊,山羊,豚など偶蹄類動物を冒す家畜伝染病。病名は動物の口と足に形成される水ぶくれに由来する。野鳥、犬、猫、ネズミは口蹄疫に感染しないが、ウイルスを運ぶ可能性があという。

 

小説の現在、口蹄疫アイルランドへ感染が及ぶの危険性が生じているようだ。

 

口蹄疫の話題(牛のテーマ)は、この小説の全体を、転々と流通していく。スロウアウェイ(throwaway)という競馬馬の名前(馬のテーマ)が転々と流通していくのと対をなすよう。

 

第2章

私立学校の校長デイジー氏が口蹄疫への対応を政府に求める投書2通の掲載を新聞社に取り次いでくれるよう、教師を勤めるスティーヴンに依頼する。アイルランドで牛に口蹄疫が伝染すると、牛の輸出が制限され経済的に打撃を受けるため。スティーヴンは『イヴニング・テレグラフ』と『アイリッシュ・ホームステッド』に頼むことにする。

 

第7章

ティーヴンは『イヴニング・テレグラフ』を発行するフリーマンズ・ジャーナル社の編集部を訪問し編集著のクローフォードにデイジー校長の投書の掲載を依頼する。

 

第8章

今回のブログの場面。ブルーム氏はカモメが口蹄疫を伝染させる可能性について思いを馳せる。彼が口蹄疫について詳しいのは昔、家畜商のカフ(Cuffe)に雇われて働いていたからだ。

 

第9章

ティーヴンは図書館で、詩人でジャーナリスト、農業協同組合運動家のジョージ・ラッセル(筆名AE)に『アイリッシュ・ホームステッド』紙にデイジー校長の手紙を掲載してくれるよう依頼する。

 

第12章

バーニーキアナンの酒場。新聞記者ジョー・ハインズは、シティーアームズホテルで開催された畜牛業者の集会に取材に行った帰りにここに寄ったという。彼は集会のテーマだった口蹄疫について語る。同席したブルーム氏はそれを聞いてウンチクを傾けている。

 

ティーアームズホテルは畜牛市場(Cattle Market)のすぐそばにあるので、ここで集会が行われたのだろう。ブルーム氏はカフの下で働いていた1893年から4年に、シティーアームズホテルに住んでいたことがある。(ブログの第99回)たぶん仕事場に近かかったからだろう。

 

シティアームズホテルはの場所

 

畜牛市場1863 年 に開設されたが、取引が減少したため、1971 年に閉鎖された。現在はドラマリー住宅団地(Drumalee housing complex)となっている。 → Dublin City Council

 

第16章

夜中の馭者溜まりにいるブルーム氏とスティーヴン。ブルーム氏はそこにあった『イヴニング・テレグラフ』を読む。スティーヴンがデイジーの投書が載っているか聞き、ブルーム氏はそれが掲載されてることを確認する。この新聞には競馬馬スロウアウェイがレースで勝ったことも載っており、ここで牛のテーマと馬のテーマが結合する。

 

オコンネル橋のカモメ

File:20130807 dublin096.JPG - Wikimedia Commons

 

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