Ulysses at Random

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』をランダムに読んでいくブログです

145(U355.170)

ブルーム:あれはオーロラか鋳物工場か。

 

第145投。355ページ、170行目。

 

 (He stands at Cormack’s corner, watching.)

 

 BLOOM: Aurora borealis or a steel foundry? Ah, the brigade, of course. South side anyhow. Big blaze. Might be his house. Beggar’s bush. We’re safe. (He hums cheerfully.) London’s burning, London’s burning! On fire, on fire! (He catches sight of the navvy lurching through the crowd at the farther side of Talbot street.) I’ll miss him. Run. Quick. Better cross here.

 (コーマックの酒場の角でじっと見ている。)

 

 ブルーム:あれはオーロラか鋳物工場か。ああ、そうか、消防隊だ。とにかく南の方。燃え盛る炎。盛んなあいつの家だったりして。ベガーズ・ブッシュ。おれたちは無事。(陽気に口ずさむ)ロンドンが燃えている、ロンドンが燃えている、火事だ、火事だ。(群衆をかき分けてタルボット通りの向こう側の方へよろよろ進む道路工事人を見つけて)見失ってしまう、走れ。急げ。ここを渡ろう。

 

第15章の始めの方。ブルーム氏はスティーヴンとリンチの後を追って、アミアンズ通り駅から、娼館街へやってきたところ。現在彼はコーマックの酒場のある角の所にいて、タルボット通りを渡ろうとしている。

 

★ ブルーム氏のいる、コーマックの酒場の角   

             

 

“Aurora”は、ローマ神話の「日の出の女神」“Borealis”は北風の神の名前に由来し、北極のオーロラのことを、“Aurora Borealis”という。オーロラがダブリンで見えるわけもなく、南の方で火事があったようだ。

 

(2023年11月9日追記)

「オーロラがダブリンで見えるわけもなく」と書いたが、2023年11月6日の晩、アイルランドを含む欧州各地でオーロラが観測されたという。ブルーム氏はここでふざけたことをいっているわけではないのかもしれない。 

www.independent.ie

 

“blaze” は「炎」だが、ブルーム氏は “Bazes”(ブレイゼス)というあだ名の男、つまりブルーム氏の妻の愛人のボイランを思い浮かべて、彼の家が燃えているのかもと空想している。ベガーズ・ブッシュはダブリン市内南東の地名だが、ボイランの家はそのあたりにあるのだろうか。

 

ブログの第37回のところでふれたように、London's burningScotland's Burningという童謡・輪唱のバリエーション。→ ♪

 

London's burning, London's burning.

Fetch the engines, fetch the engines.

Fire, fire! Fire, fire!

Pour on water, pour on water.

 

ブルーム氏はスティーヴンを追いかけてきたので、彼を見失うまいとしている。

 

    

フリチョフ・ナンセン「北の霧の中で」(1911)に掲載のオーロラの木版画

File:Nansen - Nord i Tåkeheimen, woodcut 1, coloured.jpg - Wikimedia Commons

 

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