鎖の手前で馬はゆっくり反対方向の向きへと転回したが
第144投。540ページ、1778行目。
By the chains the horse slowly swerved to turn, which perceiving, Bloom, who was keeping a sharp lookout as usual, plucked the other’s sleeve gently, jocosely remarking:
—Our lives are in peril tonight. Beware of the steamroller.
They thereupon stopped. Bloom looked at the head of a horse not worth anything like sixtyfive guineas, suddenly in evidence in the dark quite near so that it seemed new, a different grouping of bones and even flesh because palpably it was a fourwalker, a hipshaker, a blackbuttocker, a taildangler, a headhanger putting his hind foot foremost the while the lord of his creation sat on the perch, busy with his thoughts. But such a good poor brute he was sorry he hadn’t a lump of sugar but, as he wisely reflected, you could scarcely be prepared for every emergency that might crop up.
鎖の手前で馬はゆっくり反対方向の向きへと転回したが、ブルームは平生通り警戒おさおさ怠りなかったのでそれを察知しそっと相手の袖をつかんでおどけて言った。
―我らが生は危機に瀕しておりますぞ。ごり押し車に警戒あれ。
其処にて二人は立ち止まった。ブルームは65ギニーの値打ちはさらさらない馬の頭部を見やったが、突然、暗闇の中、明瞭に、それは極めて近かったため、骨と、いや肉までもが全く見たこともないように組み合わされたもののように見えた。なんとなれば明らさまにそれは四足歩者、遥臀部者、黒屁股者、懸垂尾者、吊下頭者であり奥の手ならぬ足を出していたからで、一方かの創造主はいと高きみくらに座し物思いにふけっていた。ブルームはこの善良で哀れな獣のために角砂糖の一つも持ちあわせていないのを悔いつつも、出来するやもしれぬあらゆる非常事態に備えることなどできはしないと賢明にも思考した。
第16章。夜中の2時近く。ブルーム氏はスティーヴンを自宅に連れて行こうと、馭者溜まりからベレスフォード・プレイスへ出たところ。ブログの第51回のすぐ後の箇所。車道と歩道を隔てるためポールに張られたチェーンの向こうに清掃車を引く馬がいる。
第16章は、例によって、述べられていることが不正確、不明瞭であるうえ、分かりにくい悪文で書かれている。
地面をローラーで踏み固める建設機械を ロードローラー (road roller) といって、もともと馬が牽引していた。蒸気機関で動くロードローラーをスチームローラー (steam roller) というようになったが、動力にかかわらずロードローラーをスチームローラーと呼ぶことがあるという。スチームローラーには、「反対を押し切る強引な手段,強圧」という意味もあるよう。
ブルーム氏とスティーヴンが向かい合っているのは清掃車で、ロードローラーでもスチームローラーでもない。
65ギニーというのはブログの第51回のところでふれたように、スティーヴンが65ギニーでリュートを買いたいといったからである。
「後ろ足を前に出す」“putting his hind foot foremost”というのは「いちばん良い足を前に出す」 “put our best foot forward” という奇妙な英語の慣用句をふまえている。「出だしからベストを尽くす」とか「できる限り最高の印象を与える」という意味で使われる。
"Skeleton of Eclipse (a horse)." is licensed under CC BY 4.0.
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