(ブルームは金糸織のマントとルビーの指輪を身に付け
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(Bloom assumes a mantle of cloth of gold and puts on a ruby ring. He ascends and stands on the stone of destiny. The representative peers put on at the same time their twentyeight crowns. Joybells ring in Christ church, Saint Patrick’s, George’s and gay Malahide. Mirus bazaar fireworks go up from all sides with symbolical phallopyrotechnic designs. The peers do homage, one by one, approaching and genuflecting.)
THE PEERS: I do become your liege man of life and limb to earthly worship.
(ブルームは金糸織のマントとルビーの指輪を身に付け、運命の石の上に立つ。同時に貴族の代表28人が冠を戴く。クライストチャーチ、聖パトリック、ジョージ、のどかなるマラハイドの喜びの鐘が鳴る。ミルース慈善市の男根象徴形状の花火が四方から打ち上がる。貴族らは、ひとりひとり歩み寄り、片膝をついて、忠誠の誓いを捧げる。)
貴族ら:我、命と身体を捧げ、この世の敬意をもって汝の臣下となる。
第15章。夜中の12時過ぎ。ブルーム氏はスティーヴンとリンチの2人を追って娼館街へやってきた。ベラ・コーエンの店に入ったところで、幻想の場面が展開する。ブルーム氏は市長そして王となり戴冠式が行われる。
わわわれは2023年チャールズ3世の戴冠式を知っているのでこれを振り返り、照らし合わせて、読解してみよう。
金糸織のマント
チャールズ3世もスーパーチュニカという金のシルク地で作られた長袖のコートを着ていた。これは1911年にジョージ6世の戴冠式のために作られ、ジョージ6世とエリザベス2世女王もそれぞれの戴冠式で着用したもの。
→ Bazaar

チャールズ3世の戴冠式より
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:King_Charles_III_coronation_crowning.jpg
戴冠指輪
エリザベス2世の戴冠式で嵌められた指輪が下の写真のもの。1831年ウィリアム4世の戴冠式のために製作された。中央には十字の形にルビーがあしらわれている。チャールズ3世の戴冠指輪も同じものが使われたと思われる。13世紀から戴冠指輪にはルビーがメインの石として使われている。

運命の石
スクーンの石(Stone of Scone)と呼ばれることが多い。代々のスコットランド王が、スクーンにおいてこの石の上で戴冠式を挙げたとされる。来歴はすごくややこしく、箇条書きにする。
- 1296年、イングランド王エドワード1世がスコットランド侵攻時に奪い、ウェストミンスター寺院の王座に組み込んだ。
- 1328年、スコットランドとイングランド間で結ばれたノーサンプトン条約条約により、石を返還することが合意されるが、石の移動は阻止された。
- 1950年、4人のスコットランド人学生がウェストミンスター寺院から石を盗み、3ヶ月後にアーブロース修道院で発見された。
- 1996年、スコットランドの歴史的遺産として、イギリスとスコットランド政府の合意のもと、スクーンの石がエディンバラ城に返還された。
- 2022年、ウェストミンスター寺院で行われるチャールズ3世の戴冠式に際し一時的に返還された。

スク―ンの石の組み込まれたエドワード王の王座
"King Edward's Chair, ca 1296" by nathanh100 is licensed under CC BY 2.0.
鐘
チャールズ3世の戴冠式の際には、ウェストミンスター寺院の鐘をはじめ、イギリス国内の多くの教会で鐘が鳴らされた。ブルームの戴冠ではダブリンの教会の鐘が鳴る。
①クライストチャーチ大聖堂(Christ Church Cathedral)
ダブリンにあるアイルランド聖公会の大聖堂。ダブリンに2つある中世の大聖堂のうちの古いほう。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Christ_Church_Cathedral_Dublin,_Ireland.jpg
②聖パトリック大聖堂(Saint Patrick's Cathedral)
ダブリンにあるアイルランド聖公会の大聖堂。ダブリンに2つある中世の大聖堂のうちのもう一つのほう。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:St-Patrick_Cathedral,_Dublin,_Ireland.jpg
③セントジョージ教会(St. George's Church)
1802年に建築されたアイルランド聖公会のかつての教区教会。
1980年代には、聖公会は教会の修復のための資金調達ができず、劇場に改築する計画を立てていた俳優ショーン・サイモン氏に建物を売却した。2004年に建物は新たな購入者に引き継がれ、オフィス施設となっている。
ジョージ教会はブルーム家の近所にある教会で、第4章の末尾で彼はこの教会の時報の鐘を聞く。それでこの場面で選ばれているのだろう。

④マラハイドの鐘
“Joybells ring in … gay Malahide” というは 第10章の冒頭の断章で、コンミー神父がダブリン近郊のマラハイド通りを歩みながら連想する『マラハイドの婚礼』の歌詞に由来する。
The Malahide road was quiet. It pleased Father Conmee, road and name. The joybells were ringing in gay Malahide. Lord Talbot de Malahide, immediate hereditary lord admiral of Malahide and the seas adjoining. Then came the call to arms and she was maid, wife and widow in one day. Those were old worldish days, loyal times in joyous townlands, old times in the barony.
(U183.156)
『マラハイドの婚礼』The Bridal of Malahideはアイルランドの作家、劇作家ジェラルド・グリフィン(Gerald Griffin、1803-1840)によるバラード。
The joy-bells are ringing
In gay Malahide,
のどかなマラハイドに
喜びの鐘の音が鳴り響き
『マラハイドの婚礼』は15世紀、トマス・ハシー卿(Thomas Hussey、 bef. 1410 - bef. 1439)との結婚を控えたマチルダ(モード)プランケット(Matilda (Maud) Plunkett abt. 1420 - 1482)の物語を題材にしている。彼女は結婚式当日、ハシ―卿が小競り合いで戦死したため一日にして「処女であり、妻であり、未亡人」となった。モードは後にマラハイド領主リチャード・タルボット卿と再婚した。
"Malahide" はこの小説『ユリシーズ』に何度もでてくるキーワードの一つだが、長くなるので追いかけるのはまたの機会にします。
ミールス慈善市
ミールス慈善市は、慈善団体としてのマーサーズ病院(Mercer's Hospital)が1904年に慈善資金の調達のため1週間にわたり開催したイベンド。ダブリンの南東近郊ロイヤルダブリン協会(Royal Dublin Society)で開催された。ジョイスはこれを小説に取り入れ、この日、6月16日に開催されたことにした。第13章で、ブルーム氏が少女を眺めながら海岸で見る花火はこの慈善市で打ち上げられたものだった。
忠誠の誓い
Bazaar誌の記事によると、チャールズ3世の戴冠式は典礼により次のような次第で行われた。
→ Bazaar
- The Recognition/レコグニション(承認)
- The Oath/オース(宣誓)
- The Anointing/アノインティング(塗油)
- The Investiture/インヴェスティチャー(認証)
- The Crowning/クラウニング(戴冠)
- The Homage/オマージュ(忠誠の誓い)
"homage"はこの一環で、大主教と他の王室高位メンバーが君主に敬意を表し、忠誠を誓う儀式をいう。
チャールズ3世の式典では、ウェールズ公であるウィリアム王子が父であるチャールズ国王の玉座の前に跪き「王族の血統による忠誠の誓い」を捧げた。
"I, William, Prince of Wales, pledge my loyalty to you and faith and truth I will bear unto you, as your liege man of life and limb. So help me God."
「我、ウィリアム、ウェールズ公は、汝への忠誠を誓い、汝の臣下として命と身体を捧げ、誠実と真実をもって汝に仕えることを誓う。神よ、これを助け給え。」
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