Ulysses at Random

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』をランダムに読んでいくブログです

179 (U634.1190) ー 麗しの地トゥーレーヌ

おお自治とか土地同盟とか彼のたわごとをまにうけたのは

第179投。634ページ、1190行目。

 

O wasnt I the born fool to believe all his blather about home rule and the land league sending me that long strool of a song out of the Huguenots to sing in French to be more classy O beau pays de la Touraine that I never even sang once explaining and rigmaroling about religion and persecution he wont let you enjoy anything naturally then might he as a great favour the very 1st opportunity he got a chance in Brighton square running into my bedroom pretending the ink got on his hands to wash it off with the Albion milk and sulphur soap

 

おお自治とか土地同盟とか彼のたわごとをまにうけたのはばかだったわユグノーのながい歌をおくってきたりしてフランス語で歌うと小じゃれた歌おおうるわしの地トゥーレーヌよいっぺんも歌わなかった宗教だの迫害だのくどくど説明するけどそもそもひとを楽しませるひとではないし思いあまってなのかまさにはじめてのあの日ブライトンスクエアのわたしの家のベッドルームに言いわけを作ってかけ込んできた手についたインクを洗わせてほしいってアルビオンのミルクサルファソープで

 

 

最終章。第18章。ブルーム氏の妻のモリ―の寝床での心中の声。一つの章がピリオドもコンマもない単語の長大な連なり8つでできている。ここはその7つめの一節。モリーはブルーム氏の思い出を回想している。

 

グラッドストン

“Home Rule”とはアイルランド自治法。1801年にイギリスに併合されたアイルランドでは、自治の要求が強まり、アイルランド自治を要求するアイルランド国民党はイギリス議会で一定の勢力を持つようになった。自由党グラッドストンは、国民党の協力得るためもありたびたびアイルランド自治法案を提出。しかしアイルランド支配の維持を主張する保守党の反対により、下院で可決されても上院で否決されることが続いた。

 

“Land Reague” は土地同盟。イギリス人の地主制の廃止と土地国有化を主張し1879年結成されたアイルランド政治結社グラッドストン自由党内閣は「アイルランド土地法」を制定し、問題の解決をはかったが農民の不満は解消できず、イギリス人地主と小作人の対立は激化し、アイルランド各地で両者が衝突する「土地戦争」(1880~83)に発展。農民運動を指導した国民党のパーネルらも投獄され、イギリスの弾圧により、運動は退潮した。

 

この小説の他の箇所でわかるのだが、ブルーム氏はグラッドストンを支持し、彼と対立したチェンバレンに反発している。

 

ユグノー教徒』

『ユグノー教徒』Les Huguenots)は、ユダヤ系のドイツ人、ジャコモ・マイアベーアGiacomo Meyerbeer, 1791 - 1864)作曲のオペラ。1836年パリ・オペラ座で初演。フランスでのカトリックカルヴァン派宗教戦争中に起きた、1572年8月の「聖バルテルミの虐殺」を題材にしたオペラで、ブルーム氏が宗教とか弾圧とかいうのはこのことに関係しているのだろう。

 

ユグノー教徒』はブルーム氏の好きな曲だが、彼はその作曲家をマイアベーアではなくメルカダンテと勘違いしているらしい。そのことはブログの第79回でふれた。

 

“O beau pays de la Touraine”は『おお麗しの地トゥーレーヌよ!』(Oh, Beautiful Province of Touraine!) 第2幕でナヴァールのマルグリット王妃が歌うアリア。

→ ♪ TouTube

 

ブライトン・スクエア

ブライトン・スクエア “Brighton Square”  はダブリンの南西のはずれにある地名。この一節からすると、モリーはブルーム氏と結婚するまえここに住んでいたようだ。モリーとブルーム氏が初めて会ったのは、ドルフィンズ・バーンのルーク・ドイルの家であることはこの小説に度々でてくる。そのころモリーはリホボス・テラス(Rehoboth terrace)に住んでいた。(ブログの第106回

 

そのことからモリーはリホボス・テラスからブライトン・スクエアに引っ越したのではないかと思う。ここで初めての機会 ”1st opportunity”というのはブルーム氏が初めて彼女の家に行った日ということではないか。

 

ブライトン・スクエア

リホボス・テラス

ルーク‣ドイルの家

Eason's new plan of Dublin and suburbs / Eason & Son, Ltd.(1908)

 

ちなみに、この小説の作者であるジェイムズ・ジョイスは、ブライトン・スクエア41番地(41 Brighton Square)で生まれている。とすると、この小説の主人公で作者の分身であるスティーヴンがこにで生まれたとの設定であることが考えらる。そうするとモリーとスティーヴンのデッダラス家は近所だったということになる。

 

ジェイムズ・ジョイスの生家

"James Joyce birthplace" by Socialscale is licensed under CC BY-NC-SA 2.0.

 

アルビオン石鹸

”Albion milk and sulphur soap” について。検索すると、1959 年の石鹸製造業者のリストに Albion Soap Company がある。その商品名にAlbion milk and sulphur soapとあるからこの会社の製品だろう。

→ Grace's Guide To British Industrial History

 

Albion Soap Company, The, Limited, 30-32 Thames Street, Hampton, Middlesex. Telephone: Molesey 62. Passenger and goods station: Hampton. — Albion milk and sulphur soap, Simple complexion soap, pale and carbolic household soaps, shaving soap, soft and liquid soap, soap powder and flakes. See also Chemical section.

 

Albion Soap Company は現在も、イギリスを本拠とする医療機器多国籍企業 Smith & Nephew plc の子会社として存在するようだ。

→ US Securities and Exchange Commission

 

ブルーム氏は、第3の踊り場で見たように、今日一日石鹸を持ち歩いている。とかく石鹸の好きな人なのだ。

 

ウジェーヌ・デュ・ファジェによる『ユグノー』の衣装デザイン - マルグリット役のジュリー・ドリュ・グラ(左)、ラウル役のアドルフ・ヌーリ(中)、ヴァランティーヌ役のコルネリー・ファルコン  

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Eug%C3%A8ne_Du_Faget_-_Costume_designs_for_Les_Huguenots_-_2._Julie_Dorus-Gras_as_Marguerite,_Adolphe_Nourrit_as_Raoul,_and_Corn%C3%A9lie_Falcon_as_Valentine_-_Original.jpg

 

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