Ulysses at Random

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』をランダムに読んでいくブログです

152(U1296.538) ー 自制心あふれる紳士

そして彼女は向こうのほうへ行き 

第152投。296ページ、538行目。

 

 So over she went and when he saw her coming she could see him take his hand out of his pocket, getting nervous, and beginning to play with his watchchain, looking up at the church. Passionate nature though he was Gerty could see that he had enormous control over himself. One moment he had been there, fascinated by a loveliness that made him gaze, and the next moment it was the quiet gravefaced gentleman, selfcontrol expressed in every line of his distinguishedlooking figure.

 

 そして彼女は向こうのほうへ行き彼が彼女が来るのを見たとき彼女には彼が見えました、どぎまぎしてポケットから手を出し、時計の鎖をいじっては、教会の方を見上げるのを。情熱的な性格だけどびきり抑制もできる人ねとガーティーは思った。彼はしばらく彼女の可愛さに魅了され、じっと見つめていましたが、すぐに真顔の紳士になり、その上品な顔は自制心ですっかり覆われてしまいました。

 

第13章。日没間際の午後8時。ダブリンの南方郊外、サンディマウントの海岸の砂浜。三人の少女ガーティーマクダウェル、イーディー・ボードマン、シシー・キャフリーが子供のおもりをしている。ブルーム氏もこの砂浜に座って少女たちを眺めている。

 

このブログの第78回のすぐあとの箇所になる。シシーがブルーム氏に時間を聞きに行こうしているところ。

 

ひとつめの ”she” はシシーで、"he" はブルーム氏。2つ目の "she" はシシーか。いや、ガーティーだろう。視線の主体がくるくると入れ替わっている。視線の交叉はこの章の特徴。この章は婦人雑誌に載る小説の文体で書かれているという。ジョイスはわざとへたな文章で書いているように思うのだが、それを楽しむ力は私にはない。

 

ブルーム氏がポケットに手を入れていたのはいかがわしいことしていたからだ。前々回の「踊り場」でブルーム氏の持ち物の動きをまとめた。第9項の懐中時計のところで「片手をポケットから出して時計の鎖をいじる」と書いたが、このポケットとは懐中時計の入っているチョッキのポケットではなくズボンのポケットであることがここで分かった。

 

ブルーム氏が見上げたのは、海の星聖母マリア教会(St. Mary’s, Star of the Sea)。サンディマウントのアイリッシュタウンの人口増加に応えるために1851年に設立された。

 

★ 少女たちとブルーム氏がいるのはこのあたりか。地図では海だが遠浅でずっと沖まで砂浜となっている。

〇 海の星聖母マリア教会

 

 

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